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ヒト

移住系擬兄弟ユニット・しおまちブラザーズの“すぐ会える”関係づくり(2)

ヒト:しおまちブラザーズ
トコ:レモン生産量日本一を誇る広島県尾道市生口島
コト:『移住系擬兄弟ユニット』が瀬戸田の街を活性化

昨年夏、瀬戸内海に浮かぶ生口島で結成された移住系擬兄弟ユニット「しおまちブラザーズ」。前編では彼らの結成経緯についてご紹介しました。

では彼らは移住者でありながら、どのように文字通りの「みんなのアイドル」的なポジションを確立していったのでしょうか。セルフ・プロデュースのコツについて伺いました。

▲左がしおまちブラザーズ兄の鈴木慎一郎さん。右が弟の小林亮大さん。瀬戸田しおまち商店街の新名所として誕生した「幸せの黄色いポスト」の前にて。

“地元の老若男女”との繋がりを目指して

今年オープンしたばかりの複合施設・SOIL SETODAの運営者として、昨年夏に生口島へ移住した二人。彼らはしおまちブラザーズ結成後、地域との関係づくりに専念します。

ターゲットはまさに”地元の老若男女”。小学生からお年寄りまで、あらゆる層との関係づくりをはじめました。

弟・小林さん「地元の小・中学校、高校と全ての学校に行って授業や講演をさせてもらったり、地元のレモン祭りにしおまちブラザーズとして協力させてもらったりもしました。

とにかく仕事をするだけでは出会えないような島民の方々と出会おうと思っていて。兄に関しては、海の家でバイトもしていましたよ」

▲講演会を行うしおまちブラザーズ

弟・小林さん「『島ルンです』は、島で仲良くなった人たちにインスタントカメラを渡して、島の景色を撮ってもらい、その写真をSNSに投稿させてもらいました。島の美しさを知っているのは地元の人と思ったんです。

海の家のお兄さんや、レモン農家さん、子育て中のパパなど、さまざまな角度から島の美しさを見ることができました。最初のきっかけは、大量にもらったインスタントカメラを何か面白いことに使えないかと考えてはじまった企画でしたが、とても好評でした」

▲「島ルンです」のこちらの投稿はしおブラ史上最高数のいいねを獲得。

兄・鈴木さん「写真はその土地の魅力を伝えていくのにすごく良い媒体だと思いました。これは、島の人が撮った写真が本当に素敵だからいいんですよ。自分が撮った写真が褒められたら嬉しいですよね」

そして、彼らが「すぐ会えるアイドル」であり続けるために行なった工夫、それは「ちょっと笑えるようなことをやる」ということです。

水道工事の広告をパロディに、マグネットを作ったこともありました。そういった親しみやすさは予想以上の反響を与え、なんと「地元の小学生にも住んでいる場所がバレている」ほどなのだとか。

▲水道屋パロディのマグネットは、仲のよい方からの飲み会の誘いに活用されたそう。

親しみやすさを重視し、自身も楽しみながら島での生活と自らの存在を発信していったという二人。アイドルとしての活動は、島の内部ではなく”外部”にも効果をもたらしました。

兄・鈴木さん「しおまちブラザーズという存在があることで、メディアに取り上げていただく際の情報に厚みが出ました。

施設のオープンであれば、『こんな素敵な施設ができました』で終わってしまうところを、僕らの存在を通して伝えていただくことで、より深くまで掘り下げていただけました」

弟・小林さん「あるイギリスの雑誌がAzumi Setoda(SOIL SETODA同様、しおまち商店街を盛り上げる活動の一環として、2021年3月にオープンしたラグジュアリーホテル)を取材しにきたんです。その際、SOIL SETODAもあわせてご紹介いただきました。

日本の小さな島で起こっていることを、世界的なメディアが紹介してくれる。自分たちを含め瀬戸田の人たちが過去数年やってきたことが、結果として表れたのではないかと思います。兄も大きく登場していますよ」

島の内部だけではなく、外部からも「すぐ会えるアイドル」として注目されるようになったしおまちブラザーズ。弟・小林さんは「開業前から”会える存在”を確立するために動いたこと」が要因となったのでは、と振り返ります。

弟・小林さん「島の人からすると、店の開業前はどういう建物ができるのか、どういう人がいるのか見えません。だからこそ、開業前からしっかりと島の人との関係を作ったのが功を奏しました。『しおまちブラザーズです、僕らがいます』と存在を示しておくことで、地域と新施設を繋ぐ役割が果たせたのではないかと思います。

それは島外の人も同じ。特に僕らが東京時代に関係していた人たちは、『あいつら急に島に移住してアイドルなんてやりはじめた』と、面白がって注目してくれました」

しおブラはネクストステージへ?しおブラ先輩に聞く地方移住の心得

彼らが訪れてから1年、SOIL SETODAがオープンしてから約半年が経とうとする現在。コロナ禍による影響で人の往来が控えめではありつつも、徐々に瀬戸田の街の景色に変化が見えています。

弟・小林さん「コロナ禍で遠方から人を呼びにくい時代ではあるので、現状では島の観光に与えた効果などを定量的に追うことが難しいです。

しかしSOIL SETODAも含め、この1年間で商店街周辺の空き家のうち8ヶ所が活用されるようになるなど、瀬戸田全体が賑わうようになった雰囲気はあります。施設が出来上がったことで、瀬戸田の盛り上がりが目に見えるようになってきたことは、日々実感していますね」

今後のことについてうかがうと「当初の役割を終えたからなあ」と笑う鈴木さん。まさか……しおまちブラザーズ、解散しちゃうんですか?!

兄・鈴木さん「どういう役割を担っていくかは考え中です。施設開業だけではなく、ワークショップの進行や瀬戸田への企業誘致の活動も継続していきたいので。

ただ、それぞれが一定の効果を出し始めたということは、つまるところかなり忙しくて(笑)。その中でどうしおまちブラザーズをどう存続していくか……」

弟・小林さん「来年のピークシーズンに向け、SOIL SETODAの運営とは別で、力を入れ過ぎない場づくりをやってみたいなとは思ってます。『島ルンです』は反響もよかったしまたやりたいよね。今なら写真をお願いできる人の幅も増えているし盛り上がりそう」

▲しおまち企画では、この場所で即席のゲームセンターを作ることを計画中。地元の方からビリヤード台をもらったこともあり、地元の人も観光客も遊べる場所を作ろうとしている。

島での今後の活動を楽しそうに語る二人。移住したことで生活や価値観などにも変化が訪れた、と振り返ります。

兄・鈴木さん「東京にずっと住み続けるという選択肢がなくなりました。一方で瀬戸田もずっと居続けるというより、ひとつの拠点として関わり続けたい。自分が関係を持てる地域を増やし、多拠点生活ができたらいいなと思っています。

東京には地元のコミュニティがないけれど、東京以外の場所には必ずあります。地方は、そういう土地特有の雰囲気をしっかり持っていて、それが面白いです」

弟・小林さん「東京に戻る理由は情報と人だと思っていたのですが、コロナの時代では東京が東京の魅力を発揮できていないな、とは僕も感じました。

なにより東京に行かなくていいと思ったもう一つの理由があって。東京のみんなが遊びに来てくれるんです。開業してからは頻繁に人と再会してます」

一方で、彼らは「移住」のハードルを下げることも今後の課題に掲げます。

兄・鈴木さん「地方に移住すると『この土地に根差すのか?』と問われがちです。根ざしていくことも素敵ですが、そういう覚悟を求められる問いが、地方移住に対するハードルを上げてしまっているのでは? とも思うんです。もう少し気軽に地方や海外に行きやすいような場所や雰囲気を作りたいです。

生口島はコンビニもスーパーもあるので、生活は結構便利。そういう意味では、田舎に移住したい人が移住の練習をする場所としても勧められるかも」

▲生口島は橋で本土と繋がっているため、車で30分ほどで本土へ行ける。離島生活という言葉から想像する暮らしよりも、生活は便利だそうだ。

仕事も住まいも、流動的なあり方や価値観が生まれてきている現在。「移住する」という言葉も、今後はよりフレキシブルな意味合いをもち始めるのかもしれません。最後に、二人には「地方創生にこれから取り組む人」へのアドバイスをいただきました。

兄・鈴木さん「移住したらまずは挨拶が大事! 最初の2〜3ヶ月はいろんな人へ会いに行きました。特に瀬戸田はレモンが有名なので農家さんがやはり力を持っているのですが、なかなか商店街にいるだけでは会えません。

そこで『畑を見せてください』と連絡したり紹介してもらったりして会いにいきました。あとは、意識的に会う回数を増やすことですかね」

弟・小林さん「東京ではLINE一つで済むようなことも、ちゃんと直接会って話さなきゃいけないのが地域です。あとは、周りの自分に対する期待値を必要以上に上げすぎないこと。やると言ったことができなかった時に信頼を失ってしまう。

きちんと事前にコミュニケーションを取って、自分たちができることとできないことを明確にした上で無理のない範囲で物事を進めていくのは大事だなと思います」

兄・鈴木さん「土地ごとにやり方は変わってきます。だからこそ、その地域のことを知ることも大事ですね。外から来た人間だからこそ、瀬戸田のことをネットや本などでたくさん勉強しました。

あとは地元の人から教えてもらうことを常に興味を持って学ぶ姿勢でいれました。場所を起点とする場づくりとしては、長野県下諏訪のマスヤゲストハウス、山口県萩のルコというゲストハウスの事例が参考になりますよ」

2自身の体験をそのままコンテンツとして発信をする二人の様子や、新しい出来事が次々と起こる瀬戸田の様子を見ていると、島の暮らしが本当に楽しそう。二人の親しみやすいキャラクターが地元の人や観光客など、さまざまな人を引き寄せる求心力になっていることがうかがえました。

アバター
Writer西山 綾加

岐阜県出身。学生時代からイベント制作に携わり、制作会社勤務を経て、旅行会社に転職。社会人2年目、巡り合わせでライター業を始める。音楽コミュニティー「SHAKE HANDS」所属。座右の銘は「袖振り合うも他生の縁」。新たなご縁を求めてひとり旅に出ることが趣味。