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ヒト

移住を経てしまなみ海道の魅力を世界へ!サイクリング総合施設「WAKKA」

ヒト:東京から愛媛に移住したサイクリスト
トコ:海外からも注目を集めるしまなみ海道
コト:サイクリングを起点とし、幅広い事業を展開し世界に魅力を発信

広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長70kmの海の道。そのど真ん中にある大三島から、しまなみとサイクリングの魅力を伝える株式会社わっか(WAKKA)。

WAKKAでは、宿泊、カフェレストラン、旅行業、旅客運送業、貨物運送業など、しまなみ海道70kmをサイクリングする方々をサポートする、さまざまなサービスが提供されています。

今回は代表取締役の村上あらしさんに、WAKKAでの活動と地域移住そして今後の展望についてお話を伺いました。

WAKKAの設立と事業について

サイクリング複合施設WAKKA

もともとは東京で決済系のIT企業を経営していた村上さん。実はパソコンやインターネットに強い興味があったわけではなく、ビジネスとしての勝算があったからIT企業を選択されたとのこと。本当はBtoCでお客様と顔をあわせる仕事や、人におもてなしをする仕事をしたいと考えていたそうです。

そこで、村上さんのおじいさまが生まれ育ったしまなみエリアで、自分の大好きなサイクリングや旅行に関する事業を立ち上げることを決めました。

そんな村上さんに、まずはサイクリングにハマったきっかけを伺いました。

「友人の影響で乗り始めてみたら、ロードバイクの軽さや、動力なしでスピードが出せるところに衝撃を受けました。楽しくて、もっと長距離! もっと早く! もっとかっこいいホイールがほしい! とかいろいろやっていたら、健康診断の結果がめっちゃ良くなって(笑)」

笑顔で話す村上さんは、しまなみエリアでサイクリングをする魅力も教えて下さいました。

「しまなみ海道はやっぱり高速道路の横を自転車で走れるようになっているのがいいですね。素晴らしい景色を眺めながら、信号がない道を走り続けられる。日本で一番良いサイクリングロードだと思います」

日本一だと村上さんがお話して下さった、しまなみ海道でのサイクリングのサービスを提供しているWAKKA。WAKKAのサイクリングにはどんな特徴があるのでしょうか。

「しまなみエリアにいらっしゃるサイクリストの中には、70kmものコースを走るに当たって『リタイアしたらどうしよう』『物資はどうしよう』といった不安をお持ちの方も多いです。その不安を全面的にサポートするのがWAKKAのサイクリングサポートです。自転車や手荷物をお届けする配送サービスや、パンクなどのトラブル時に駆けつける出張修理サービス、片道だけのサイクリングを楽しんでいただくための運転代行によるマイカー回送サービスなど、約10種類のサービスを提供しています」

サイクリング以外にも、WAKKAではカフェや宿泊施設、アクティビティ体験など数多くのサービスを提供しています。

「私のミッションはこの地域の魅力を世界に伝えること。その一つに景色があると思っています。ですから、カフェや宿泊施設からは瀬戸内らしい景色を見られるようにしています。サイクリングして、カフェでお茶して、焚火して、宿泊して。そういったものをワンストップで提供できているのがWAKKAの強みです」

これらの構想は起業時点からあったのでしょうか。

「『地域に足りないことは全部やろう』と始めから思っていたので、最初にやりたいと考えていたレールには乗れていると思います。アクティビティは地域の方々がもともと提供していた陶芸体験やいちご狩りなどを斡旋する形でスタートしましたが、船釣りやSUPなど、地域になかったものを随時自社で追加しています。ウェディング事業やマイカー回送サービスなど、お客様のご要望に応えて提供してみた結果、人気になったサービスもあります」

東京から愛媛への移住

株式会社わっか代表取締役・村上あらしさん

東京から愛媛に移住するにあたって、村上さんはほとんど不安を感じなかったそうです。地方への移住についてもお話を伺いました。

「変化があることを楽しめるタイプなので、大きく環境が変わることに関してはプラスしかなかったです。こういうモデルのビジネスをやりたい、という考えもありましたし、家族も信頼してついてきてくれたので、そこまで難しく考えませんでした」

「移住直前は子供が保育園の待機児童だった頃で本当に大変だったのですが、こっちに移住してきてすんなり入ることができてびっくりしました。環境も、東京の駅の近くの小さい保育園と比べると、こっちは教室も園庭も広い。のびのび育ってくれているように思います。そういった点でも移住してきて良かったですね」

「ただ少子化が進んでいて、学年に四人しか子供がいないんですよね。少人数なのでみんな仲が良いし、どこで何やっても目に留まるからいじめの心配もなくて平和なのですが、反面、人数が少なすぎて多様性に欠ける部分はあります。習い事やオンライン学習などを取り入れて、子供たちの成長をサポートしてあげる努力は都会以上に必要かなと感じます」

一抹の悩みはあるものの、移住してきて良かったと感じる機会が多いとのこと。

「自然がいっぱいというのはとにかく良くて、朝昼晩・春夏秋冬の景色の変化も大きいですね。海や景色が綺麗で毎日気持ちが良い。ストレスも少なくて、そのおかげで大人も子供もイライラすることが少なく、のびのび楽しく暮らせています。また、家族と一緒にいられる時間が長くなったのは大きな収穫でした。東京だと通勤時間がドアtoドアで1時間かかっていたのが、3分くらいになりました」

また、愛媛と東京の子供に違いを感じると村上さん。

「こっちの子供たちはすごく挨拶をしてくれます。車に乗っている時に横断歩道で道を譲るとお辞儀してくれるだとか、東京では見たことなかったので驚きました。そういう行動が当たり前にできる子たちに囲まれて育つと、自分の子たちもナチュラルに同じことができるようになると思うので、その辺りも嬉しいですね」

愛媛での暮らしを満喫している村上さんですが、『都会で人間関係に疲れたから地方に移住したい』と考えるのは危険だと語ります。

「実は都会以上にコミュニケーションが必要、というのを強く感じます。挨拶をちゃんと出来ない人が移り住んできたら、こっちの人も不審に思ってしまう。お祭りなど地域のイベントに参加したり、地元の人と飲みにいったりといったご近所付き合いを重ねていくのが大切ですし、なによりその方が楽しいと思います」

地方へ移住して事業を立ち上げたいと考えている人に向けてのアドバイスも下さいました。

「まずは楽しむことが大事です。それからやっぱりコミュニケーション。地元の人とたくさん友達になって暮らしを楽しんでいたら、その場所がどんどん好きになっていくと思います。仲良くなると地元の人も興味を持ってくれるので、そうなると生活も仕事もうまくいくと思います」

移住先とWAKKA

WAKKAで働く地元スタッフの方

次に、移住先の地域の反応と影響についてお話を伺います。

「聞こえてくる限りでは、WAKKAの活動は喜んでいただいているようです。自分たちの活動が地元の役に立って、経済的にもプラスになればと考えています。勝手に観光資源を使って、自分たちだけがお金儲けしている状態にはならないようにという点は強く意識しています」

WAKKAでの事業は地元の方々の雇用も生んでいます。

「現在の社員は20数名ですが、そのうち15名くらいは地元の方ですね。ちょっとしたお手伝いやパートさんを含めるとそれ以上のたくさんの方に助けて頂いています」

また、就職を希望して移住を検討する人たちの受け入れではこんな苦労もあるそうです。

「地方に移住するにあたって大変なのは仕事よりも家探しなんです。この辺りは空き家の数も少ないし、空いていてもすぐに賃貸にはできなかったりして、不動産屋さんが都会のようには機能していません。中古住宅を買ってリフォームする手段もありますが、工事の費用と期間を考えると、誰もが取れる選択肢ではない」

「やっぱりまずはお試し的な気持ちで住んでみて、その上でその後も長く住み続けるか検討したい人が多いんですよね。そこを解決するために弊社では社宅を用意しています。ただ、それでもまだ足りない。シェアハウスや集合住宅など、パパっと気軽に借りられる賃貸があればもっと人を雇えるのになと思うことは多いですね」

今後の展望

WAKKA宿泊施設は自転車を室内に持ち込み可能。愛車を常に目に見えるところに置いておけることは、サイクリストからするととても安心だそう

最後に、WAKKAの現在の状況と今後の展望を伺いました。

「WAKKAは現在、年間を通してカフェ利用で2〜3万人、宿泊利用で7千人を超えるお客様がいらっしゃいます。全体の3割ぐらいがインバウンドのお客様ですね。海外からのお客様はしまなみエリアのサイクリングを目的にしている方がほぼ100%です。WAKKAの公式サイトは英語のページも用意しているので、そこから問い合わせが発生しているのが大きなチャネルのひとつになっています。またWAKKA施設には英語対応できるスタッフが常駐しているので、安心してご利用いただけているのではと感じます」

「サイクリングは本当に健康にも良いので、全国的にもっとカルチャーになってほしいと思っています。5年後、10年後は国内外問わずさらにたくさんの人が、しまなみ海道にサイクリングをしに来てくれることを妄想しながら頑張っています。そのためにPRを頑張らなきゃいけないし、SNSももっと活用していきたいですね。今は宿泊予約サイトやGoogleマップに投稿いただいた口コミひとつひとつにお返事をすることが精一杯の状況で、本来やりたいと思っているレベルにはまだまだ達していません。まだまだ伸びしろがあります」

「直近で取り組みたいと考えているプロジェクトもいくつかあって、シェアバイクのポートを増やしたり、KASHO-KIという短距離フェリー航路のスマホ情報サイトの運営を充実させたり、富裕層向けの宿泊施設やワーケーション関連施設を開設したりと、いろいろ進めています。現在一緒に働いてくれているスタッフは決まったタスクを真面目にこなしてくれるのが得意な人が多くて、新規プロジェクトはまだまだ僕からスタートしているのが現状。こういった企画立案ができるスタッフの育成についても考えていかなきゃな、ということも課題の一つですね」

「東京に居たときよりもずっと忙しいし常にやることはいっぱいな状況ですが、全部好きでやっていることなので、毎日本当に充実しています。長期的には、今後も何をしたら地域に貢献できるのかなというのを考えて、実践していきたいです。いまは、このエリアにもう少し若い人の人口を増やしたい、そこに役立てる起業でありたいと思っています」

WAKKAの今後の活躍を想像すると、胸が踊ります。笑顔でお話される村上さんの言葉の節々から感じられる『地域に貢献できる企業でありたい』という強いお気持ちが印象的でした。

観音
Writer観音
https://kannnonn.com/

1985年生まれ。大阪府出身。自然豊かな生活環境を求めて2020年に長野県信濃町に移住。ヒップホップのトラックメイカーとして活動しながら個人ブログ「mozlog」(https://kannnonn.com/)を運営。フルサイズバンで車中泊しながら遊んで学ぶのが最近の趣味。