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ヒト

地域資源を掘り起こす!ニュースポーツ「フォトロゲイニング」の可能性(2)

ファミリーもアスリートも同じ1枚の地図で参加が出来る競技、フォトロゲイニング。そんなフォトロゲイニングには実は、防災やアウトドアなどでの緊急時に役立つスキルが身に着くという面もあります。引き続き、日本フォトロゲイニング協会代表理事の伊藤奈緒さんにお話を伺いました

フォトロゲイニングで得られる、緊急時に役立つスキル

読図は大切な技術。初心者も市街地の大会ならチャレンジしやすい

フォトロゲイニングは、「移動力」「読図力(戦略)」「チームワーク」が試されるスポーツです。その中でも特に移動力と読図力は、災害やアウトドアでの遭難など非常時に役立つと伊藤さんは考えています。「地図を読んでそこに行ける」という能力は、有事の際にこそ求められる力です。

最近は、トレイルランなどの山中でのアウトドアスポーツが広く親しまれるようになりました。拡大と比例して、トレイルランの途中で迷子になり遭難しかかったといったような事例も見聞きされるようになっています。また、2011年の東日本大震災の際には、電車が止まり携帯の電波もなかなか通じず、混乱の中多くの人たちが何十キロも歩いて帰宅せざるを得なくなりました。どちらもとても不安になるケースです。ですが、例えばスマートフォンではなく自身で地図を見て方角が分かる、自分が1時間にどれだけ徒歩で動けるのかを知っているだけで、そういった不安は解消されると伊藤さんは話します。

伊藤さん「時間と距離感、そして自分の体力を、経験によって知っていることは大事です。安全な状況下で『迷子』を経験していることは、非常時にかなりのアドバンテージになります。仮に山の中で遭難しても、フォトロゲイニングで迷った経験があれば、自分が慌てるとどうなるかを知っています。また、スマートフォンに頼らなくても読図力と経験によって『地図の○○地点までは来ていたはずだ、そこまで戻ろう』といった、正しい判断が出来るようになります。地図の他にコンパスが使えれば、より助けになるでしょう。ナビゲーションスポーツであるフォトロゲイニングには、安全な状況下で非常時を経験してシミュレーションができ、移動や読図の力を把握し伸ばすことが出来るという側面もあるのです」

チームビルディング研修でも活用が可能

仲間と一緒に作戦をたて身体を動かすことで絆が深まる

フォトロゲイニングは、チームで一緒に戦略的に行動することから「チームワーク」を鍛えることもできます。競技の中で楽しくチームビルディングが出来ることから、特にコロナ禍以降に社内研修などに利用される機会も増えてきたそう。

伊藤さん「こういった研修のときは、大会とは違って走らずに歩く人が多いので、ウォーキングメインで狭めにエリアを決めます。また、企業によっては逆にかなり厳しいスパルタ系のコースを希望されることもあります。研修プログラムの前半にフォトロゲイニングを取り入れるのですが、そのとき新人と部長クラスを混ぜてチームを作るなど、企業側でも工夫をされています。ただのアイスブレイク用のゲームではなく、戦略的な要素があることがチームビルディングに役立つと好評です」

フォトロゲイニングの課題とこれから

アスリートもファミリーも同じ地図で楽しめる

フォトロゲイニングのこれからを伺うと――?フォトロゲイニングのスタンダードな形を継続して地道にノウハウを積み重ねていくことが、普及に繋がるのではないかと思っていると伊藤さん。主催者側からのさまざまな企画を入れたり特別ルールを運用したりといった要望について、その要望の背景について理解は出来るものの、実際に参加者の反応が良いのは自由度の高いシンプルな大会であることが多いのです。協会、そういった実状について理解を示し歩み寄ってくれる主催者、そして何よりも楽しんでくれる参加者とともに、三者が一体となる形でじっくりと普及に努めていきたいと考えています。

その背景には、フォトロゲイニングというスポーツのクオリティをしっかりと守りたいという伊藤さんの強い思いがあります。フォトロゲイニングは、日本発祥の楽しく手軽なロゲイニングとして急速に広まる一方で、不正確な地図によるトラブルや本来の競技を誤解させる変更が行われたこともあったそうです。そこで、伊藤さんはフォトロゲイニングの商標登録も行い、その定義も設けた上で、更なる普及活動を行ってきました。日本フォトロゲイニング協会が監修した「公認大会」は、いままでで170大会を越えます。公認大会は協会メンバーを派遣して全般的な運営に関わっています。ほかには、運営者講習を受けた人が、審査を受けてのれん分けのような形で行っている「登録大会」があります。(※講習は2023年から再開の予定)

伊藤さん「コアメンバー6~7人で運営しているので、全方位的な普及に努めるにはなかなかマンパワーが足りないのが課題です。協会は地図作成に特化し、実際の運営は主催者にお任せするなども考えたのですが、自治体の場合は数年おきに担当者の異動などがあるので、なかなかそうはいかないのが実情です。だからこそ、これからはSNSなどを積極的に活用していきたいですね。動画の時代ですから、フォトロゲイニングの様子が直接的に伝わるリールやストーリーズなどの動画投稿をしたら、今までと違った層にも届いて面白いかなと考えています」

協会設立からちょうど10年。試行錯誤を繰り返した年月を経て、そろそろの次のフェーズに入るときが来たと感じていると話す伊藤さん。積み重ねた実績とノウハウをもとに、もっとたくさんの人にフォトロゲイニングの楽しさ、また防災やアウトドアでのサバイバル能力にも直結するという側面を知ってほしいと話します。

伊藤さん「嬉しいのは、歩いて回っていた人が『走ればもう1か所回れたかも』などとおっしゃったり、次の参加では装備が本格的になっていたりする瞬間です。もっとたくさんのチェックポイントを回れるように体力づくりを始めたという話もよく耳にします。よい変化のきっかけになれれば嬉しいですね。気になった方はまず大会に参加してみてください。お待ちしています」

気軽に参加出来るレクリエーションでありながら、競技としても奥が深く、役立つスキルが身に着くのがフォトロゲイニングの魅力です。めいっぱい走り回るも、気になるスポットでのんびり休むも、楽しみ方は自由。誰でも自分のペースで参加出来るので、楽しそう!とピンときた人は、まずは地元の大会に参加してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

※「フォトロゲ®」、「フォトロゲイン®」、「フォトロゲイニング®」は登録商標であり、開催には日本フォトロゲイニング協会の監修が必要です。

【追記】フルサトドットコム編集部もフォトロゲイニングを体験してみました。

2022年10月23日。東京夢の島公園グリーンパークで開催された「新木場&夢の島フォトロゲイニング」に、フルサトドットコム編集部も参加してみました。他のチームは親子連れのファミリー、女性ばかりのグループ、本気装備のアスリート風など多種多様。若手の男性3名で参加した編集部チームは、好成績が期待出来そうだと内心思いながら開始を待ちました。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、スタート時間は4組に分けられ、密を回避。

好天に恵まれ11時スタート、最初にどのチェックポイントをどの順番で回るかの作戦を立てます。出来るだけ高得点のチェックポイントを回れるようコース設定をし、体力的にそのコースを走破出来るのかを話し合います。1kmを徒歩で何分かかるか、ジョギングで何分かかるか、自分の体力を知っておくことが大切であることを実感しました。制限時間は今回2時間。遅刻すると大幅減点となりますので、効率よく回れるかどうかが鍵となります。順位を重視するなら、気になるチェックポイントで素敵なフードやスイーツを楽しむのは、競技が終わってからのお楽しみにするのが得策です。

男性3人で写真を撮影しながら時には走り、時には歩いて、立てた作戦に沿って進んでいきました。撮影用のカメラは1台に決められており、チェックポイントでは対象を背景に撮影者以外のメンバーを入れて撮影するのがルールです。ですから手分けして回ったり、走力のあるメンバーが先回りをしたりしても得点にはなりません。幅広い層が楽しめるよう考えられたルールです。

チェックポイントごとに先頭を務めるペースメーカーを入れ替え、全員がチームを引っ張って行く雰囲気が出せるとチームビルティングにも一役買えそうでした。走力がある人は後方に気を配り、体力に自信がない人は周囲が盛り上げる、そんな一体感が醸成されそうです。また各チェックポイントではテンション高めにさっと撮影を済ませたほうが、リスタートを切りやすくなるコツも発見。

最終的に、タイムは1時間58分45秒、得点は539点。トップとは352点の差で、参加32チーム中12位の成績を残しました。「もっと順位を上げたかった…!」というのが終了後にまず強く思ったこと。「コースが決まっていない中、作戦を立てるのが面白い。体力には自信があるので、もっと要領よく回ればスコアを伸ばせるのでは。海辺や山など自然豊かなコースでまた体験したい」と早くも次回参加についてメンバー間でやり取りを交わしました。

二階堂ねこ
Writer二階堂ねこ
https://twitter.com/nikaidoneko

奈良育ち、大阪の出版社勤務を経て、結婚を機に和歌山に移住。海のある街に猫と住む夢が叶ってごきげんな日々。猫記事から地域創生、医療記事まで、取材やインタビュー執筆をメインに活動しつつ、地域の魅力を発信したいフリーライター。