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小川町=”オーガニックのまち”のイメージを広げたOgawa Organic Fesとは。

小川町=オーガニックのまちを印象付けたOgawa Organic Fesとは。

埼玉県の中部。人口約3万人の小川町には、ここ約3年の累計でなんと150人ほどの移住者がやってきたと言います。そんな小川町が注目を集める一つのきっかけとなったのが、有機農業やオーガニックを発信するフェス“Ogawa Organic Fes”でした。

もともと小川町は、古くから有機農業を実践してきた歴史をもつ地域。

今回は、小川町により多くの人を惹きつけるきっかけとなったOgawa Organic Fesの発起人・共同代表の一人である、一般社団法人the Organic代表の小原さんに、イベントの成り立ちやイベントを通じた小川町の変化について伺いました。

小原壮太郎さん

小川町とオーガニックの歴史

そもそも小川町とオーガニックの歴史は、1970年代まで遡ります。有機農業の第一人者とも言われる金子美登さんを起点に、地区に有機農業が広がっていきました。金子美登さんの営む「霜里農場」は循環型有機農業を実践しており、化学肥料や農薬の不使用はもちろん、エネルギーまで自給しているのが特徴。そんな金子さんの農場を参考に、町中で有機栽培が広がっていき、地域外から有機農法を学ぶ人が移住してくるようになったそうです。現在、小川町の町内では700軒ほどの農家のうち10%程に当たる70超が有機農家。国内の農業全体でも有機農業の割合は0.5%くらいなので、小川町の有機農家の割合は、全国から見ても非常に高いと言えます。

金子美登さん

では、農業やオーガニックとは元々は関わりがなかったという小原さんは、なぜオーガニック、ひいては小川町の農業に興味をもつようになったのでしょうか。

小原さん「新卒で大手広告代理店に就職し、そこで10年くらい働き、目標としていた社会起業家として起業するために退職しました。ひょんなご縁からアントニオ猪木さんのプロレス団体の代表取締役を務めることとなり、猪木さんの北朝鮮訪問に同行する機会があり、現地で農業問題について意見交換をしたことをきっかけに、農業に興味を持ちました。当時農業のことは全く知らず、勉強のために2008年の冬からいろんな農園を見学しました。」

農園の見学を重ねる中で、小原さんは千葉県のとあるオーガニック農園をたずねます。

小原さん「そこはアトピーの子供やうつ病の大人の駆け込み寺的な農園で。1泊2日の農園体験で、実際に僕も顔中から液体が吹き出すデトックス体験をしたり、そこに来た人たちが健康を取り戻しているのを見て“これだ!”と思いました。地方にオーガニックな農園が増えて、農や食の問題が解決し、そこに人が集まれば地域も活性化します。有機農業で健康な人が増えれば日本の医療費問題も改善します。つまり、オーガニックを広げていくことで、日本の多くの社会課題が一気に解決すると思い、オーガニックの普及啓発を2009年から始めたんです。」

Ogawa Organic Fes 開催までの経緯

オーガニックの普及啓発を始めた小原さんは、趣味のトライアスロンがきっかけで、フェスの発起人の一人である四角大輔(よすみだいすけ)さんと出会いました。

▲四角大輔さん

小原さん「四角は音楽プロデューサーとして数々のミリオンヒットを作り上げてきた男です。彼もオーガニック食で健康を取り戻した経験があったので意気投合して。二人で力を合わせてオーガニックを広げて行こうと、2013年にthe Organic(ジ・オーガニック)を立ち上げました。」

彼らが大事にしていたのは、既存の団体の協力を得ながら、自分たちの活動を普及させていくこと。まずは小川町の有機農業第一人者と言われる金子さんのもとを訪ねます。

小原さん「当時、日本の有機農業界には主に3つの団体があり、このうちの一つ、全国有機農業推進競技会の代表が金子美登さん。金子さんの奥様である金子友子さんと事務局を務めるNPO法人生活工房つばさ・游の高橋優子さんと、政府主催で市民団体が集まる会でお会いしたことがあり、その時に小川町の有機農業のことを教えていただき、興味を持ちました。


▲高橋優子さん

改めて金子さんたちに会うために小川町に伺い、お話したことが今の活動の大きな転機になっています。

四角が小川町に広がる20ha超のオーガニックな田畑を見た時、作物が緑色に萌えている美しい里山風景に感動して、思わず”ここでフェスやったら最高ですね!”と言ったんです。すると金子さんたちからも”ぜひやりましょう!”というお声をいただき、2014年からOgawa Organic Fesを始めることになりました。」

生き方が変わるきっかけを提供するイベントを目指す

Ogawa Organic Fesは、一般社団法人the organic の小原さんと四角さん、そしてNPO生活工房つばさ・游の高橋さんの三人が発起人となり、実行委員会を組織しました。

小原「オーガニックフードのマルシェや、ワークショップ、LIVEなど、様々なコンテンツを用意して、生産者と消費者、企業がつながるような工夫を用意しました。フェスの目的はF1層(20〜34歳の女性、プレママ世代)へのオーガニックの普及。女性は子供が生まれると、子供には良いものを食べさせたいという思いから、オーガニックにシフトするケースが結構多いんです。だから、都会の女性に小川町の空気や澄んだ水などを体験してもらい、オーガニックを五感で感じて貰うイベントにしました。

直ぐには変化しなくても、ライフスタイルの変わり目に“そういえば小川町で食べたお米美味しかったし、健康に良さそうだ”とオーガニック食を始めたりというような、生き方が変わるきっかけを提供するイベントを目指しました。」

そんな小川町オーガニックフェスには初年度から来場者が殺到。予想を上回る来場者に地元の人々も喜んだそう。その後もイベントは拡大を続けます。

▲第一回Ogawa Organic Fesの様子

小原さん「初年度は地元の村祭みたいな感じでやろうと思い、200~300人ほどの来場者数を想定していたら、1000人弱くらい集まって。2年目は大雨の中、約3000人を超える方々がいらしてくださったんです。これは確実に反響があると思い、3年目からは山の中の大きなキャンプ場で開催しました。すると、3年目は4500人、4年目は6800人とどんどん来場者が増えていったんです。」

▲3年目以降はキャンプ場で開催。イベントはどんどん大きくなります。

そして、2016年からは環境省と共催となり、持続可能な新しい社会に向けたショーケースの一つとしてOgawa Organic Fesは2018年の環境白書にも掲載されました。

小原さん「地球と共存するという意味では、地球温暖化対策としてもオーガニックは重要になってきています。2016年に環境省の中井徳太郎さん(現・環境事務次官)に出会ったことをきっかけにオーガニックやサスティナビリティの情報を発信するアンバサダーチームを環境省と連携しながら組成しました。その流れでフェスは環境省と共催になり、真っ先にアンバサダーに就任してくれたシンガーソングライターのMINMIさんなどメジャーなアーティストの方々にも出演していただける様になりました。こうした活動が認められ環境白書に取り上げていただくに至りました。」

2018年からは範囲を拡大。小川町の隣、埼玉県熊谷市を中心に周辺地域を巻き込んだイベントも開催されるようになりました。

小原さん「オーガニックやサスティナビリティが東京オリンピックでも重要なテーマになることから、“グレーター熊谷構想”を提案しました。グレーター熊谷構想とは、ラグビーワールドカップの会場にもなる熊谷市を中心にサスティナブルでオーガニックな生き方・暮らし方を実践する地域連携を発信していこうというもので、その象徴として埼玉最大級の野外フェスを実施する、という提案でした。これを契機に、ラグビーワールドカップの1年前のイベントと併せて、2018年に“GREATER KUMAGAYA ORGANIC FES”を開催しました。このイベントには1日で4万5千人を超える方々が集まってくださいました。」

GREATER KUMAGAYA ORGANIC FES 

フェスの拡大とともに町の認知度も向上し、多くの人が小川町にやってくるようになったと言います。

小原さん「Ogawa Organic Fesをやってみたら都市部から若い子たちが来るようになり、それが話題化して”小川町=オーガニック”がだんだんメジャーになり、グレーター熊谷でさらに認知度が上がったとおっしゃってくださる方もいます。小川町はこの3年間で移住者が150人ほど増えたのですが、移住者の中には、”Ogawa Organic Fesが小川町に来たきっかけだったんです”という方もいらっしゃって、マジで人の人生変えてる!…と嬉しくなりました。」

イベント以降の人の流れは、イベント以前に小川町に起きていた人の流れとは異なるものだったと言います。

小原さん「金子さんの取り組みでオーガニック農家が増え、それを活かす飲食店が生まれていくという流れは既に起きていました。それに加えて小川町のことを町外に広めることに”Ogawa Organic Fes”が貢献したとおっしゃっていただけることがあります。フェスの来場者数も初年度からの累計で2万人ほど。そこから更にSNSで拡散されるので、オーガニックやサスティナビリティに興味がある人に聞くと結構”Ogawa Organic Fes”を知っていただけていることが多くあります。」

地元の祭りに昇華させていく

このように、町外から多くの人々を呼び込んできたOgawa Organic Fes。拡大を続けるのかと思いきや、今後はより地域に根ざしたイベントにしていきたいと小原さんは語ります。

▲Ogawa Organic Fes 2019

小原さん「2018年で5年を迎え、原点回帰ということで、昨年は街を回遊する観光型フェスにしました。規模は2000人台と一気に小さくなりましたが、オーガニックに関心がなかった町の飲食店も参加してくださったり、小川町の駅前で多くの人が歩く様子に、“こんなに人が歩いているのは何十年ぶりだろう!”という反応がありました。2020年は中止となってしまいましたが、次の段階としては、地産地消フェスに変換しようとしています。2019年度からは、実行委員の地元民割合を増やし、地元の人中心で組織していますが、今後はより地元に特化し、地元の人たちが作って楽しむ持続可能なイベントにしていきたいです。」

規模を縮小することには、持続可能なイベントにする以外にも、こんな目的も。

小原さん「これは日本の地域あるあるなんですけど。意外と地元の方ががオーガニックを知らなかったりするんです。地元でもフェスの認知度は高まってきたので、そろそろ町内の方により関わっていただきたいと思っています。地元の方々に関わっていただくには、やはり主催に入っていただく必要があります。予算規模も小さくなるので今までやってきたことと同じことはできなくなるとこともありますが、外から注目を集める賑やかしも別のカタチで創っていきたいと考えています。」

Ogawa Organic Fesスタッフのみなさん

Ogawa Organic Fesは、小川町の資源とも言える有機農業と町外の有機農業啓発団体が結びついたことで出来上がった「地域の魅力発信役」と言えるのではないでしょうか。イベントによって町外から注目を浴びるようになった町は、次のフェーズとして、地元の資源を地元民に再認識してもらう段階へと突入したようです。現在、小川町と都内の2拠点生活をする小原さんは、小川町の新たなまちづくりプロジェクトにも携わっているそう。今後どのような展開が起こるのか、小川町から目が離せません。

一般社団法人the Organic

一般社団法人the Organicは、オーガニックを中心にサステナブルなライフスタイルを啓発・拡大することで農業・環境・労働・健康・医療など多面的な社会課題を解決し、健康で平和な社会づくりに貢献します。

アバター
Writer西山 綾加

岐阜県出身。学生時代からイベント制作に携わり、制作会社勤務を経て、旅行会社に転職。社会人2年目、巡り合わせでライター業を始める。音楽コミュニティー「SHAKE HANDS」所属。座右の銘は「袖振り合うも他生の縁」。新たなご縁を求めてひとり旅に出ることが趣味。