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コト
まちなかステージづくり

地元民が大活躍!新潟県十日町市「分じろう・十じろう」ができるまで(1)

地元民が大活躍!新潟県十日町市「分じろう・十じろう」ができるまで(1)

ヒト:地元住民と建築士たち
トコ:中心市街地の活性化を目指すまち・新潟県十日町市
コト:コミュニティデザインによる新たな「まちおこし」

新潟県十日町市には、「分じろう」「十じろう」という市民交流センターがあります。ここは、市民の”ステージ”として、ダンスやものづくり教室、お料理会など、十日町市民が主体となって楽しい活動を”上演”し、まちに賑わいを作り出しているスペースです。

オープン当初から多くの市民に活用されたこの施設。全国的に見ても評価が高く、2016年には「分じろう」「十じろう」を運営するための一部の取組みが、グッドデザイン賞を受賞しています。

なぜ、これほど市民が活発に利用する施設となったのでしょうか活動の中心となった民間団体、studio-H5(スタジオエチゴ)代表の阿部正義さんと、同団体のメンバーであり、NPO 法人ひとサポでコーディネーターを務める韮澤篤さんに、プロジェクトの経緯についてうかがいました。

▲studio-H5のメンバーのみなさん。写真一番左が韮澤さん、中央が阿部さん。

講演会が繋いだ行政の悩みと市民の想い

阿部さんと韮澤さんの本職は、どちらも建築士。十日町市の建築士会に所属するメンバー5名が「建築士としてまちに貢献できないか」と模索する中で企画した講演会が「まちなかステージづくり」へ参加するきっかけだったといいます。

阿部さん「当時、建築士会で地元への貢献方法を模索していた時に、とあるテレビ番組で、コミュニティーデザイナーの山崎亮さんの放送を視聴しました。この番組で、山崎さんの実践するコミュニティデザインというものに感銘を受け、市に掛け合い、山崎さんに十日町市での講演会を依頼したんです。」

山崎亮さんは、株式会社Studio-Lの代表であり、「地域の課題は地域に住む人が解決する」ために、「まちづくりの担い手となるコミュニティをデザインする」デザイナー。オファーが実り、建築士会と十日町市の共催で、十日町で「すごく考えるプロジェクト」と題する山崎さんの講演会が開催されました。


▲写真中央が、株式会社studio-Lの山崎亮さん。

韮澤さん「この講演会は、“みんなでこれからのことを考えよう”という内容で、誰でも参加可能だったのですが、結果は250名と立ち見が出るほどたくさんの方に来ていただきました。こんなにたくさんの人たちが参加してくれるとは思いもよらず驚きました。実はこの講演会をきっかけに、行政と建築士会のコミュニケーションが生まれ、『十日町市中心市街地活性化基本計画』という市の計画の存在を知りました。」

当時十日町市では「『新たなにぎわい』に満ちた『魅力あるまち』の創造」を目標に、市民活動や地域住民の繋がりを活用した中心市街地活性化基本計画の策定に着手していました。講演会の盛り上がりを受け、阿部さんらは「気持ちに火がついた」と、策定中の「中心市街地活性化計画」に対し、「市民発信型の取り組みを始めること」を提案したといいます。

阿部さん「建築士という職があるにも関わらず、まちづくりに関われていない自分たちに、忸怩(じくじ)たる思いがあったのです。中心市街地のビルの改装も活性化の取り組みの一つということで、専門家としてお役に立てる部分があるのではと思いました。市としても、中心市街地の計画を決めかねている段階で、私たちの提案が非常にブレイクスルーになったようでした。」

市民発信型の中心市街地活性化計画

行政の計画と、市民のまちづくりに対する姿勢の変化のタイミングが合致し、十日町市は変化を始めます。実際に、まちづくりに関わる外部団体として、株式会社studio-Lが選ばれ、それに合わせ、建築士会に所属する阿部さんを中心とする5名でstudio-H5を作り、ボランティアで活動に参加していきます。

阿部さん「建物の改装を前提に、『市の中心施設をどのようにしていくか?』を民間で話し合う会議を開くにあたって、市民をまとめて導いていく役割を担う人をまず集めようと、『En+Design』というチームをつくり勉強会を開きました。自分たちが『まちの担い手』として、建物というハードの完成を目指す上では、ハードの知識がなければ上質な会議はできないと考え、デザインやコピーの作り方、会議を回すためのファシリテーションの技術を学びました。

ソフトデザインもハードデザインも、カッコよくなければ愛着が持てなくなってしまうんですよね。だから、ファシリテーション意外にも、センスの良いキャッチコピーの作り方や、デザインを身につける必要があったのです。」

韮澤さん「En+Designで学び、一般市民を含めてワークショプを開催し、反省会をしてまた学ぶ…。半年間、2ヶ月に1回のペースでこれを繰り返し、作成したのが『まちなかコンセプトブック」です。ここには、『市民がまちなかで楽しく活動するためのコンセプト』をまとめ、施設設計者の募集要綱も市民が主体となって作成しました。」


▲コンセプトブックの表紙デザイン。「市民が日常的にまちなかで楽しみをつくりだし、これからも楽しみながら十日町市で住み続けたい」というワークショップ参加者の思いから、「まちなかで楽しむ。それがまちを変える。」がコンセプトに。

コンセプトブックをもとに、建物の設計を選ぶコンペが行われました。なんと全国各地から60件ものアイディアが集まり、最終審査では、そのうち6件のプレゼンテーションが披露されました。

市民代表として阿部さんも審査に参加。その中から「市民とともに作りあげるというコンセプトブック通りの内容でありながら、唯一建物の完成形を示さなかった」として、青木淳建築計画事務所のアイディアが選ばれます。


▲プロポーザルにて、真剣にプレゼンを聴く阿部さん。審査員の半数は十日町市民。

阿部さん「コンペ後に2次審査が行われ、そこで青木さんに市街地に青木建築事務所の常駐場である『ブンシツ』を作ることを提案していただきました。

市民による中心市街地活性化のプロジェクトだからこそ、市民のひらけた意見を常に集められる設計拠点が必要では、と。市民の意見を常に吸収しながら、計画が常に変化するという、これまでにない取り組みになりました。」

▲ブンシツの様子。「お料理を持ってくる人、遊びに来る人、意見をいいに来る人、文句を言いに来る人…。普通だったらもう来ないでくれとなりそうなところを、全然拒絶することなくやり遂げていて、青木さんと常駐建築士の2人には本当に頭が下がります。」(阿部さん)

韮澤さん「この『ブンシツ』を広く市民が使える場所としても提供してくださったので、もともと十日町で市民活動をしていた人たちや、ワークショップに参加していた市民らが、中心市街地で活動をするのに使い始めました。それが『分じろう』『十じろう』の予行練習として後に効いてくるのです。」

仕事中の常駐建築士の周りで新年会やクリスマスパーティーが開かれたり、建築士が留守中も使用できるようにしたりと、かなり自由な場所になっていたようですが、この「ブンシツ」の存在が、「分じろう」「十じろう」にどのような効果を及ぼしたのでしょうか?

後編では、市民が主体となって作り上げた市民交流センターの完成までと、完成と同時に多くの市民が使用する場所になった秘訣に迫ります。

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Writer西山 綾加

岐阜県出身。学生時代からイベント制作に携わり、制作会社勤務を経て、旅行会社に転職。社会人2年目、巡り合わせでライター業を始める。音楽コミュニティー「SHAKE HANDS」所属。座右の銘は「袖振り合うも他生の縁」。新たなご縁を求めてひとり旅に出ることが趣味。