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岩壁音楽祭

ノウハウを公開し石切場を巡る。「岩壁音楽祭」が目指す地域活性の理想型

ノウハウを公開して全国の石切場を巡る。前代未聞の音楽フェス「岩壁音楽祭」の目指す地域活性化の理想型

2019年5月に山形県高畠町で開催した音楽フェス「岩壁音楽祭」。東京から片道2時間半以上かかるこの場所に、東京や山形・仙台など、各地から合計約500人もの若者が集まりました。このフェスの特徴は、なんと言ってもそのロケーション。かつて採石場だった「瓜割石庭公園」に垂直に切り立つ岩壁は、その雰囲気はもちろん音響効果もバツグン。このような素晴らしいロケーションでありながら、普段は地元民の芋煮会場として利用される程度で、県民の中でも知名度も高くはないそうです。

彼らはこの場所とどのようにして出会い、なぜフェスを開催したのでしょうか。さらに自らのノウハウを無償で公開する彼らの目指す姿とは。

今回は、山形・東京と各地で生活する岩壁音楽祭実行委員のうち、発案者の後藤桂太郎さん、ローカルとの関わりを担当する菊地翼さん、ボランティアスタッフ総括の吉田芽未さんにお話しをききました。

今回話を聞いた3人。左から、後藤さん、吉田さん、菊地さん。

「山形での遊び方」と瓜割石庭公園との出会い

岩壁音楽祭の発案者・後藤さん。東京のナイトイベントに精通し、自身もオーガナイザーやDJとして活動していましたが、仕事の都合で山形に転勤になります。ネオン街からのどかな街へ、これまでの様にイベント情報を手に入れる事ができなかったと言います。

後藤「WEBの情報は東京のものばかりで、転勤当時は山形の情報を探すのに苦労しました。山形には東北芸術工科大学(以下、芸工大)という東北で一番大きな美大があり、芸工大出身の人たちが中心となったローカルコミュニティーと出会ったのがキッカケで、イベントのネットワークが徐々に広がっていったんです。」

今回の舞台になる瓜割石庭公園を知るキッカケになったのは、このローカルコミュニティーで出会った菊地さんでした。

菊地「芸工大入学を機に福島から山形にきて、10年になります。僕のイベントに後藤くんが遊びに来てくれた時に、彼に山形の遊び方を教えてくれと言われ岩壁を紹介しました。瓜割石庭公園は仕事のロケハンで見つけたお気に入りの場所で、プライベートでもよく行っていました。」

東京と山形、互いに無いものが結びつけたアイデア

後藤さんは、東京と山形の2拠点で生活する事で見えてきた事があると言います。

後藤「東京はフェスも似たモノが乱立していて、コンテンツが飽和状態。一方の山形は、若者が感性を刺激されるような環境が少なく、退屈している。山形の大自然のロケーションを活用できたら、東京の画一化された演出も唯一無二ものになると思っていました。岩壁を初めて見た時、両者に足りないものがガッシリ結びついたんです。」

彼のアイデアを後押しするように、現地の若者も引き寄せられてきます。岐阜県出身の吉田さんは芸工大の企画構想学科で学ぶ現役の大学生。吉田さんが所属する学科では、山形の地元企業や地域課題をクリエイティブで解決する課題に取り組んでいます。

吉田「私も芸工大のコミュニティを通じて後藤さんと知り合いました。山形の生活は少し退屈だなぁと感じる事はありましたが、自ら何か面白い事を創り出そうとまではなりませんでした。自分達には日常だった景色が、都会の大人の人達には新鮮に映っていて、ワクワクしながら計画を立てている姿を見ると、自分たちもやってみたいと思いました。」

たくさんの人の協力で出来上がったフェス

岩壁のロケーションに心打たれた東京メンバーと、後藤さんの企画に刺激を受けた山形メンバー。こうして、東京と山形の二拠点を中心にリモート実行委員会が発足します。しかし、メンバーは皆フェス運営の初心者。最初は大型フェスの手伝いに参加するところからフェス開催までの知見を集めていったそうです。

後藤「デザインやウェブメディアへの広報などは、東京チームが担当し、現地の交渉事や、ポスター貼り、会場整備等は、山形チームが担当しました。現地に挨拶に行った時、“フェス”という言葉では伝わり辛かったので、“大きなコンサート”の準備をしていますと説明して回りました。」

現地の挨拶回りには、山形チームの芸工大生が活躍します。何度も挨拶するうちに、瓜割石庭公園の歴史を聞いたり、世間話をする間柄になったりと、地元住民との交流も深まっていきます。この地道な活動が、更なる協力者を引き寄せてくるのです。

菊地「フェス素人の熱意が伝わったのか、音響、照明、舞台施工などは、かつて山形で開催されていた「龍岩祭」という音楽イベントを運営していたプロの業者にお願いすることができました。みなさんの惜しみない協力のお陰で、無謀な挑戦も何とか形にすることができました。」

灯台下暗し。地域資源を見出す外からの視点。

長年その土地で過ごす住人よりも、外から来た人の方が地域の新しい価値を見つけ易いというケースは珍しくありません。さらに、外から来た人によって見出された地域の魅力が、地元住民の誇りになる事も多々あります。まさに岩壁音楽祭にもその様な役割がありました。

後藤:僕たちは新規性と独自性を大切にフェスの準備を進めていきました。自分と同世代を楽しませることを目的にコンテンツを考え、PRしていったんです。すると、これまで温泉や食べ物を目当てに来ていた観光客とは全く違う層の人が山形を訪れることになりました。結果、音楽フェスを目当てに来た彼らは、現地の体験を通じて山形にも面白いものがたくさんあるという事に気付いてくれたと思います。」

菊地「地元の人も「瓜割石庭公園はいいところだよね」と言うけれど活用しきれていませんでした。地元ではそれが当たり前になってしまって、そこに価値を見い出すのが難しくなっていたんだと思います。星がすごく綺麗とか、カエルの大合唱とか、自分たちにとって当たり前のことが、よその人には体験できない価値のあることだとは思っていないんです。」

会場最寄りのJR高畠駅にはなんと駅舎内に温泉が。フェスを目当てにやってきた人だからこそ、改札すぐ横が温泉入り口という他ではありえない光景がサプライズになります。

後藤「70歳近いジャズ喫茶のマスターが、ヒップホップアーティストのライブを見て泣いていたんです。フェスというイベント自体は理解されていないのかもしれませんが、若者が集まって何かをする熱量は伝わったんだと思います。」

地元の人たちは、岩壁音楽祭の開催で都会からたくさんの若者が高畠町にやって来たことに驚き、またその若者たちが自分たちの地域を楽しんでいるところを見て喜んでいたそうです。

日本の各地で面白いことをやる人が増えてほしいから、イベントのノウハウを開示する

未経験から企画したフェスも、さまざまな人のサポートによって開催することができたのだから、自らの経験も発信する事で、各地に同志ができるのではないか。そう考えた後藤さんは、岩壁音楽祭が出来上がるまでのノウハウをnoteで公開しています。

後藤「誰でもできるイベントを目指すことが、僕らなりの地方創生だと思っています。特定の地域だけが活性化しても、他の地域での汎用性がなければ意味がないと思うのです。岩壁音楽祭のノウハウを活用して、面白いことをやろうと立ち上がる人が出てきて、日本各地でムーブメントが起き、総じて日本の地域が元気になるのが地域活性化の理想だと思います。」

実際、吉田さんは、岩壁音楽祭に参加したことをきっかけに学生が集い表現を共有するリアルイベントの企画・運営を始めたそうです。

吉田「山形の学生は街へ出ることやイベントに参加する機会が少ない。そんな時に岩壁音楽祭を経験して、自分と同世代が楽しむためのイベントを自分で作れる魅力を感じました。イベント企画を学んでいますが、課題で作るイベントと自発的に作るイベントでは取り組み方が全然違いました。」

影響は身近なところにとどまりません。フェス制作の裏側を発信したことで、岩壁音楽祭に興味を持ち、運営メンバーに志願する人、共同イベントの開催を検討してくれる店など、全国にコネクションが広がり始めているそうです。

前代未聞。オープンな移動式音楽フェスで全国にムーブメントを起こす。

岩壁音楽祭は2020年10月31日(土)〜11月1日(日)に第二回の開催を予定しています。場所は前回と同じ瓜割石庭公園。その後は日本全国の石切場で開催する、前代未聞の移動式音楽フェスを目指しているのだそうです。

開催の知見は毎回オープンにし、コネクションも各地に残していくとのこと。また、第一回開催を経て、開催地の協力が必須であることを学んだ彼らは、協力者を獲得するため、開催地が変わるごとに新しい土地に足繁く通い地道な信頼獲得を続けていくと言います。

後藤「岩壁音楽祭のキッカケは、開催地山形にある芸工大のコミュニティーでした。芸工大の生徒は全国から集まってきているので、就職を機にまた各地へ散らばっていきます。山形で過ごした‟灯台下暗し”という経験が、どんな地域でも活きてくれば面白いと思います。」

WEB上でノウハウが公開されることにより、彼らに感化され得る人は運営に携わる人から遠い地域の誰かまで無限に広がっています。汎用性のあるオープンソースなフェスを目指す彼らの挑戦は、新しい視点で見ることで地域の隠れた魅力を発見できること、そして何よりも行動を起こすことの大切さを教えてくれます。

アバター
Writer西山 綾加

岐阜県出身。学生時代からイベント制作に携わり、制作会社勤務を経て、旅行会社に転職。社会人2年目、巡り合わせでライター業を始める。音楽コミュニティー「SHAKE HANDS」所属。座右の銘は「袖振り合うも他生の縁」。新たなご縁を求めてひとり旅に出ることが趣味。