農業を切り口にコンテンツを生み出す
新進気鋭のレーベル「ソイルワークス」とは
2020年6月中旬。突如としてSoil Works(ソイルワークス)という新進気鋭の“レーベル”が現れました。彼らは米どころの新潟県出身者による、農業を切り口に様々なコンテンツをプロデュースするチームです。
東京と南魚沼の2拠点、現在計9人から成るチームは、何を目指し、これからどんな活動をしていくのでしょうか。 代表の貝瀬智大さんにお話を伺いました。
▲ソイルワークスの代表・貝瀬智大さん
INDEX
「いつか帰ってくるだろうな」と思わせる
故郷・南魚沼の魅力
南魚沼出身、現在は東京でイベント会場の運営などを手がける貝瀬さん。会計専門学校を卒業後、最初は地元で就職。その後、音楽の仕事に携わりたいという思いから、東京に進出しました。ライブツアー制作や音楽フェスの企画制作、イベント会場の運営など、憧れの仕事で経験を積み、地元・南魚沼へのUターンも視野に入れはじめたと言います。
貝瀬さん「なんとなく東京に出てくるタイミングで、いつかは地元に戻ってくるんだろうなと思ってはいたんです。それが今回のコロナをきっかけに在宅勤務やオンラインが増えたことで、地方でも住んでいけるイメージができました。」
実は、貝瀬さんの周りでは、南魚沼を含む新潟県全域で、一度東京に出た人が地元へUターンしていくことが多いのだそう。都会を経験した人が地元へ戻りたくなる、南魚沼の魅力とは一体何なのでしょうか。
貝瀬さん「南魚沼の魅力は、全て“雪”に還元されるのが面白いところです。まず、豊富な雪解け水があることで、米作りが盛んです。米農家は、冬になるとスキー場や除雪の仕事をする人も多く、まさに雪に生かされています。スノーボーダーから絶大な人気を誇るスキー場もあり、スノーボードなど横乗りカルチャーが根付きました。そこをきっかけに、音楽、アートなど様々なカルチャーが深く根付いているんです。」
特に音楽カルチャーについては、地元の音を発信するスペースが南魚沼の中心地である六日町駅にあり、そこを拠点にラッパーやDJもたくさんいるのだそう。シーンの第一線で活躍する人もゲストでやってくるような店になっており、そこを中心に、近隣にカッコいいセレクトショップがあったりと、南魚沼独自のカルチャーが発展しているのだといいます。
貝瀬さん「そんな土地だからこそ、やはり面白い人がたくさんいて。プロスノーボーダー兼米農家で、6年連続で米のコンクールで金賞をとっている人がいたり。あとは、市議会議員でありながらプロスノーボーダーとしても活動している方や、有名スノーメーカーとのコラボデザインを手がけるアーティストがいたりとか。一見関係ないように見える事柄も、全て根底には雪の存在があるのです。他の地域と比べてもクリエイティブな人が多く、『この街なら面白いことを仕掛けられるかも』と思いました。」
ソイルワークスの目指す理想の地元
貝瀬さんは、地元時代にも単発イベントの企画をしていたそう。しかし、こうしてチームを作るのは初の試みでした。
貝瀬さん「今の南魚沼の学生や子供達や自分の子供が大人になった時に、『戻ってきたい』 と思わせるような魅力ある地元にしていきたいと思っていたのですが、自分一人ではできることに限界があります。そんな時、地元の友達や新潟出身の友人達にはクリエイティブな人達が多いことが見えてきた。みんなの力を集めれば想いを形にできると確信して、古くからの友人や先輩に思いを伝えたのです。、すると二つ返事で賛同してくれて、チームが出来上がりました。やはり、みんな地元がすごく好きなんです。」
東京4人南魚沼2人の6人からスタートし、現在は9人となったチームは、自らを「農業レーベル」と名乗ります。
貝瀬さん「農業レーベルとは、ソイルワークスを一言で表す言葉です。メンバーが音楽好きということもあり、音楽レーベルからもじりました。プロデューサーからアーティストまで、クリエイティブな人々が集う音楽レーベルのように、デザイナー、編集者、ビートメイカーにビデオディレクターなど、クリエイティブな人々が集まるソイルワークスも、扱うものは違いますが、組織として見ると、レーベルという存在に近いと思うんです。」
1stEP『日本一”伝える”お米ブランド』とは
農業を切り口に、様々なクリエイティブを活用して南魚沼の魅力を発信するソイルワークス。その第一弾プロジェクトとして動いているのが、『日本一”伝える”お米ブランド』です。貝瀬さんは米農家出身であることを活かし、生産の背景が見えるお米作りをプロデュースします。
▲ソイルワークスがプロデュースするお米ブランド「然然(しかじか)」。詳しく言う必要がない時に使う「然然」をブランド名にした由来は、新潟県南魚沼産コシヒカリの知名度はあえて語らなくても知っているだろうという自信からなのだそう。そんなあえて言うまでも無く有名な米の、今まで語られて来なかったストーリー(然然にされてきたコト)を知ってもらいたいという想いが込められています。
貝瀬さん「普段自分が口にする食べ物の生産過程が見えないことに違和感を感じていました。その違和感とソイルワークスが結びつき、レーベルの第一弾プロジェクトとして、米作りの背景を全て発信するコミュニティを作ろうと思い立ちました。」
米の生産過程と聞くと、田植えや稲刈りのイメージがほとんどではないでしょうか。ですが、ソイルワークスの発信する過程とは、もっと詳細で、もっと深いものにしていきたいのだといいます。
貝瀬さん「稲刈り後から次の水田を作るまでの過程など、あまり注目されない農作業も発信していきたいです。あとは、南魚沼の土地や気候、そして生産者のおかげで美味しいお米ができるので、作り手や米が育つ土地である南魚沼のルーツについても知ってもらいたい。そこまで知ってもらったら、もう作ったのも同然です。そう思ってもらえるくらいに伝えていきたいです。」
さらに、田植えや稲刈りを実際に南魚沼で体験できるイベント開催を検討しているといいます。
貝瀬さん「本当に知りたい人に知りたい情報を発信できるよう、コミュニティを作りたいと考えました。知りたいと思ってくれている人がいるから、こちらも隅々まで全部伝えていきたいと思います。家族で春に田植えをして、フジロックの帰りに田んぼの様子を見て、秋には稲刈りにくる。そんなコミュニティが出来上がったら嬉しいです。」
地元の火種をつくる
イベント運営の知見を持つ貝瀬さんをはじめ、動画制作やデザインなど、メンバーそれぞれが専門分野を持つソイルワークス。そんな個々の能力やアイデアが交わるプラットフォームとなり、地元発信で行動を起こすことで、南魚沼を盛り上げていきたいと貝瀬さんは言います。
貝瀬さん「外側からいろんな力で活性化させようとしても、それだと長続きしないんです。だから、内側からじんわりと火をつけていくことが大切だと思います。内側から盛り上がっていけば、その土地のムーブメントとなり広がっていく。ソイルワークスというプラットフォームに、ローカルの声が集まり、それを具現化できるようなチームになることが目標です。」
プロジェクト第一弾となるお米プロデュースでは、住人のほとんどが田んぼを所有しているという南魚沼で、米を通じた新しいビジネスの可能性を地元に提案したいという思いもあるそうです。
貝瀬さん「米どころ南魚沼で、美味しいお米を作る競争を続けるのは大変です。そこで、視点を変えて、こういうやり方もあるんだと地元の人に知ってもらいたい。自分たちの活動が火種となって、南魚沼で新しいアイデアが生まれたら嬉しいです。」
「地元の火種をつくる」という考えから、ゆくゆくは、地域の子供たちに様々なことを教える機会を作ることも考えているのだそう。
貝瀬「ソイルワークスとして様々な人たちと作り上げた関係を活かし、子供たちに地元で面白いことをする大人の姿を見せたいのです。そうすることで色々な生き方を学び、人生の選択肢を増やしたり、地元を面白がるきっかけになるといいです。」
また、9月18日(金)からはブランド立ち上げを記念して、東京でポップアップイベントを開催。会場では、南魚沼の米農家さんへのインタビュー映像上映や「 Soil Works」が発行する農業カルチャー新聞『Soil Works SHIN-BUN Issue vol.1』を無料配布を行います。さらに、POP-UP限定仕様 の「然然」お試しパック(3合)の販売と、令和2年産の新米(2kg、 5kg)の予約販売も行われます。
米も、仕事も、まずは知ることがきっかけになり、地域の人が行動を起こすきっかけをつくることで、地域が盛り上がっていくと貝瀬さんは考えます。彼らの活動はまだ始まったばかり。地元愛あふれるレーベルの、今後の活動にぜひ注目してください。
『南魚沼産コシヒカリ”然然”LOUNCH POP-UP EVENT』
期間:9月18日(金)〜9月23日(水) 11:00-21:00
場所:渋谷パルコ1F COMINGSOON( 東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ1F)
入場料:無料
詳細はこちら(Soil Works 公式Instagram)
SoilWorksとは、農業の価値を生産物だけで捉えるのではなく、[過程、風土や文化、作り手、食の慣習]と幅広く再定義し、「農」にまつわるコンテンツのプロデュースを行うクリエイティブチームです。