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めがねフェス

地場産業を再編集。ファンが集結するめがねフェスの成り立ち

クリエイティブの力で地場産業を再編集
全国からめがねファンが集結するめがねフェスの成り立ち

あなたのフルサトの名産品は何ですか?

鉄器といえば、岩手県の南部鉄器。タオルといえば、愛媛県の今治タオル。日本各地には、その土地ならではの気候風土や歴史背景に育てられた名産品がいくつもあります。中でも、名産品から連想される産地で屈指の知名度を誇るのが、福井県の「鯖江めがね」ではないでしょうか。

国産めがねの約9割が鯖江市で作られており、名実ともにめがねの産地としてその名を知られています。そんな「めがねのまち」福井県鯖江市を代表するイベントが、今回ご紹介する「めがねフェス」です。

2019年は来場者数約17600人、うち55%が県外からの来訪者という、鯖江の街に大きな人の流れを産み出すイベントの、成り立ちや今後の展望について、主催者である福井県眼鏡協会の副会長で、めがねフェス実行委員長でもある小松原一身さんと事務局長の島村泰隆さんにお話を伺いました。


集合写真上段中央:福井県眼鏡協会の副会長でめがねフェス実行委員長の小松原一身さん
集合写真上段右:事務局長の島村泰隆さん



鯖江とめがね作りの歴史
めがねフェス立ち上げの経緯

鯖江とめがねの関係は、明治時代まで遡ります。実業家の増永五左衛門が、雪深い農閑期の副業として村へめがね枠づくりを提案します。新聞の登場や教育の普及で活字文化が育ち、それに伴い、めがねの需要も増加。その後サングラスの普及も相まって、鯖江市の一大産業へと成長しました。

近年では、JK課でも有名な鯖江市の牧野市長の地域ブランド戦略が功を奏して、メディアの注目を集めていきます。

小松原「牧野市長になってから、各所で「鯖江=めがね」を押し出してくれるようになりました。特に転機となったのは、2009年の東京ガールズコレクションに牧野市長がメガネと共に出演したことです。持ち前のキャラクターも相まって、そこから一気に知名度が上がりました。他にも、アパレルブランド、アイドルとのコラボレーション企画を業界に持ち込んでくれたりと、本当に色々と取り組んでいただきました。」

TOKYO GIRLS COLLECTIONに出演した牧野市長。鯖江のめがねを若者にPRしました。
©TOKYO GIRLS COLLECTION by girlswalker.com 2009 SPRING/SUMMER

福井県眼鏡協会に加盟するめがね会社は現在なんと220社。フレーム専門の会社、レンズ専門の会社など、同じ業界内でも分業されていることによって、他社との協力関係が築けているというのも特徴です。技術力の高い会社が集結し、国内生産のシェアを独占してきたとはいえ、常に順調に成長してきた訳ではありません。

島村「2000年ごろに安価な中国生産のメガネが登場し、めがねの価格崩壊が起こりました。視力矯正器具だっためがねが、手頃で気軽に購入できる事で複数所有も可能な時代になってきました。めがねは、ファッション性を求められると同時に、視力矯正というマイナスなイメージをプラスに変えていく必要もありました。日本で唯一の眼鏡製造の産地に来て頂き、産地でしか知る事ができない眼鏡のストーリーを、作り手から見て聞いて体感して頂きたいという思いが、めがねフェスへとつながりました。」

産地では、めがねの魅力発信と、眼鏡産業を支えてきためがねと先人への感謝を目的に、めがねフェスの前身となる「めがねまつり」が長きにわたって開催されていました。その「めがねまつり」に着目し、作り手から直接めがねの魅力や作り手への想いを伝えられるイベントにしようと、当時、眼鏡協会副会長に就任したばかりの小松原さんが動きます。

 

地元の祭からめがねファンの聖地へ
クリエイティブの力で若い世代にも楽しんでもらえるフェスに

小松原さんはそれまで完全委託だった「めがねまつり」の座組みを改変し、実際にめがね作りに携わる、協会役員、事務局、若手の青年部、そして地元のクリエーター、メディアを集めて実行委員会を組織しました。

小松原さんが特にこだわったのはクリエイティブでした。若い世代をターゲットに、めがねの素晴らしさや作り手の想いをより魅力的に伝えられるよう、地元のクリエーターを実行委員に加え、ロゴやイメージの作成をします。さらにメディアとしてFM福井も実行委員に招聘し、メインMCやアーティストのブッキング担当をしてもらいます。

小松原「めがねまつりを、産業・観光に繋がるようなイベントにアップデートしたいと考えました。マルシェやワークショップ、クラフトなどのトレンドを参考に、若い世代にウケるスタイリッシュなイベントを目指し、作り手と直接会話してめがねの魅力を聞けるという産地開催ならではの特徴を楽しんでもらえるように心がけました。」

めがねフェスのロゴ

めがねフェスのコンセプトに賛同してくれる眼鏡や眼鏡関連の商品を作る会社を募っていきました。実行委員主導で会場の雰囲気をコントロールし、「めがね」という強い軸を保ちつつもスタイリッシュなイベントのイメージを作り上げたのでした。

食べ物の出店条件ももちろん「めがね」。こちらのカレーは、ゆで卵とソースでめがねが描かれています。会場では、店ごとにアイデア溢れる一品が楽しめます。

若い世代に楽しんでもらうための工夫は、各種コンテンツにも現れています。コンテンツの一つ「めが盛り」(写真左)は、1分間にメガネをかけられる数を競うという斬新な競技。子供から大人まで幅広い世代が出場し、毎年大盛り上がりするのだそう。マルシェのような雰囲気が作られた会場では、女性はもちろんファミリー層も多く見受けられ、子供たちもめがねを楽しんでいるとのこと。

ステージでは音楽イベントも開催されます。アーティストもめがねがトレードマークの方や「めがね」をテーマした曲をお持ちの方など、めがねで統一。実行委員でもあるFM福井によって毎年豪華なアーティストが出場し、会場を盛り上げています。

2016年からスタートした「めがねよ、ありがとう作文」も人気コンテンツの一つ。めがねへの感謝にまつわるさまざまな人生模様が描かれるこの作文は、子供からお年寄りまで、日本中世界中から300通以上の応募が集まるといいます。

小松原「前身の「めがねまつり」の時から変わらず大切にしていることは、現在の眼鏡産地の礎となった先人やめがねへの感謝の気持ちです。その上で、どうしたら若い世代の来場者に楽しんでもらえるかを考えてきました。「めがねよ、ありがとう」をコンセプトに、音楽や食なども組み合わせて1日中楽しめるコンテンツを用意してます。」

ものづくりの背景を発信することがもたらす
産地への効果とは

産地が一丸となって毎年イベントを開催してきためがねフェス。ものづくりの背景を作り手から使い手に直接発信することは産地にどのような効果をもたらしたのでしょうか。

島村「めがねユーザーは、作った人から直接が聞けるというのは普段経験できない事です。産地のめがねは決して安くはありませんが、どんな人がどんな思いでめがねを作っているのか、モノができるまでのストーリーを体験してもらう事で、産地のめがねの本当の価値を理解してもらえる。具体的なところでいうと、会場に隣接するめがねミュージアム内のめがねショップでは、産地メーカーがエンドユーザーに自社商品を直接PRする事でイベント当日の眼鏡売上が毎年増え続けています。」

めがねフェスの会場敷地内にあるめがね会館内にはめがねミュージアムがある。めがねの歴史を学べる博物館から、職人体験ができる工房までが一つのビルに集結している。1階のめがねショップには福井県産の3000本以上のフレームが展示されている。

近年ではトレーサビリティやサスティナビリティーという言葉にも代表されるように、消費者の意思決定において、ものづくりの背景は重要性を増しています。日本には、鯖江だけでなく優れたものづくりする地域がたくさんあります。鯖江も然り、一般的にものづくり工場は、モノができるまでのストーリーを体験してもらう事で、本当の価値を理解してもらえるのです。

ものづくりにかけられた手間隙やつくる人の思いを伝えること、体験させること、そしてファンになってもらうことは、産地を継承していくためにも大切にしていきたいことです。

小松原「地元の中でも会社が違うとなかなか交流する機会はありません。ですがイベント開催時には若い青年部から社長まで来ますから、そこでコミュニケーションが生まれて業界の団結力も高まっています。」

産地が一丸となって取り組むことで、業界内の繋がりを深めるという効果も。さらには県外から訪れた来場者の中にも、イベントを通じて移住をする若者がいたり、ボランティアの地元大学生が生産者と直接交流することでものづくりに魅力を感じたりと、「つくり手の想いを伝えること」はあらゆる波及効果をもたらすようです。

自治体との連携と今後の展望

めがねフェスは、全国のめがねファンを魅了し、年々来場者数を増やして行きました。特に、2016年には同じく眼鏡協会が主催するBtoB向けの展示会「サバエメガネメッセ」と同日開催をしたことで来場者数が大幅に増加します。さらに翌年には、鯖江市と連携し、市が主催する「吹奏楽フェス」や全国ネットのテレビ局の地方巡回型ライブイベントの同日開催を行い、鯖江市全体で人の流れを作り上げていくようになります。ブランディングの強化とクリエイティブの力で地場産業の魅力を発信するイベントとして大成してきためがねフェスの今後の展望について伺いました。

島村「県外からこれだけの来場者が訪れるイベントですから、ホテルや旅館、飲食店、小売店など、めがね業界以外の産業も巻き込み、鯖江や福井全体をより楽しんでもらえるイベントにしていけたらと思います。」

具体的には、周辺情報のガイドマップ作成を検討しているとのこと。さらに、2020年に実施予定だった、就職相談室の設置、工場見学を通して、めがね業界への就職希望者の支援をするといった、地域イベントを越えた人の流れを作る取り組みにも積極的です。

地場産業を発信するイベントのロールモデルとしても注目されるめがねフェス。今後は地場産業の枠を超え、地域の魅力を発信するイベントへと発展が期待されます。

「めがねフェス」の改革に挑んだ小松原さんの挑戦も、ものづくりの背景が重要視される時代を先読みした取り組みだったのではないでしょうか。めがねづくりも、元々は先人が切り開いた新しい産業だったように、新しい挑戦を受け入れる風土が鯖江市にはあるのかもしれません。

アバター
Writer西山 綾加

岐阜県出身。学生時代からイベント制作に携わり、制作会社勤務を経て、旅行会社に転職。社会人2年目、巡り合わせでライター業を始める。音楽コミュニティー「SHAKE HANDS」所属。座右の銘は「袖振り合うも他生の縁」。新たなご縁を求めてひとり旅に出ることが趣味。