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「受け入れの意思を見せるのが大事」 越前海岸に移住者が集まる理由

「受け入れの意思を見せるのが大事」 越前海岸に移住者が集まる理由

断崖絶壁が広がる名所・東尋坊のある福井県坂井市から福井市、南は敦賀市まで続く、雄々しい岩が連なる海岸線「越前海岸」。そのうち福井市に属する鷹巣(たかす)、棗(なつめ)・国見(くにみ)・越廼(こしの)・殿下(でんが)という5つの地区には、地域を盛り上げようと団結する任意団体・越前海岸盛り上げ隊が活動しています。

海水浴離れが原因で減少傾向にあった越前海岸の観光入込客数は、越前海岸盛り上げ隊の活動をきっかけに、2015年以降じわじわと増加。2018年までの3年間で累計約3万人も増えたと言います。さらに、ここ数年には移住者も増え、更なる盛り上がりを見せています。

交通の便も悪く、決して生活しやすいとは言えない地域に人を集める越前海岸盛り上げ隊とは一体どんな団体なのでしょう?

地域おこし協力隊として殿下に移住し、任期後も越前海岸盛り上げ隊に所属しながら地域での活動を続ける髙橋要さんにお話を聞きました。

▲高橋要さん

  • 越前海岸盛り上げ隊とは

そもそも「福井市越前海岸盛り上げ隊」が結成されたのは2015年3月。当時「越前海岸」と呼ばれるエリアは地域の高齢化率が45%と、超高齢化社会と言われる日本の中でも特に高齢化の進むエリアでした。

地域の過疎化を危惧し「自然の魅力あふれる、豊地元をなんとかしたい」という想いのもと、地元のガラス作家や飲食店店長など、地元の経営者らが集まったのが結成のきっかけなのだとか。

現在は30の事業所、37人の隊員が集い、越前海岸エリアのガイドマップや体験コンテンツを作成したり、空き家を整備したりするなど、地域に人の流れを作る活動を精力的に行っています。

高橋さん「活動する義務があるわけではなく、あくまでもそれぞれの思いがあって集まっている団体なので皆前向きな姿勢で活動しているのが特徴です。」

高橋さんも越前海岸エリア出身者かと思いきや、ご本人は山形県の出身。大学院卒業後、新潟や京都での地域づくりの活動を経て、福井市殿下地区の地域おこし協力隊に就任したことがきっかけで、越前海岸エリアに移住したそうです。

高橋さん「昔から人が好きで、新潟や京都で暮らす中で地域づくりを仕事にしたいと思うようになっていました。そんな時に、かつてのご縁から、殿下の地域おこし協力隊の募集を紹介してもらったんです。殿下では当時から他所から人を受け入れる活動が盛んで、地元の中に地域を盛り上げようとする熱量を感じました。ここなら何かできるかもしれないと思い、協力隊になることを決めました。ちなみに当時は活動の一環として、地域の農家レストランで働いたりしていましたよ」

地域おこし協力隊として3年間の任期満了以降も殿下に住み続けることを決意したほど「地域に入れ込んだ」タイプ。現在も殿下で暮らしながら、地域コーディネーターやライターとして活動していると言います。

そんな高橋さんが越前海岸盛り上げ隊に加入したのは、2015年10月頃とまさに発足間もない頃だったのだとか。なぜ殿下の地域おこし協力隊として活動していたのに、越前海岸盛り上げ隊にも加入したのでしょう?

高橋さん「元はといえば、殿下の地域おこし協力隊員として、殿下以外の地域の人々と繋がりを作りたいと思っていたからなんです。盛り上げ隊は、広い越前海岸の中でも文化が似ている5つの地区に位置する事業者が集まる団体。事業者の任意団体でありながらこの規模はあまりないと面白さを感じました。」

設立まもない頃から20箇所もの事業所が集まっていたという越前海岸盛り上げ隊。設立した当時から団体の熱量の高さに関心を持ったといいます。

高橋さん「当時は団体として駆け出しの時期だったので、これからどうなっていくのか興味を持ちました。この団体はとても前向きです。新しいことをすると仕事が増えるからと、つい“やらない理由”を考えてしまう組織もある一方で、越前海岸盛り上げ隊は“自分たちで何かしないとこの地域の未来が危ない”と自ら行動できる団体です。本当にこの地域に必要なものは何かを考えて、その為にどうお金を使うか、考えて行動できる人たちなのです。」

▲月に1回以上開催される定例会では「越廼サテライトオフィス」に集合。きれいな夕日が見える会議環境で、情報交換や話し合いが行われます。

  • 地域の受け皿としての成長

地域の中で「新しいこと」をするハードルは高い一方で、越前海岸盛り上げ隊は、任意団体という特性上、熱量のあるメンバーが集っていたことがうかがえます。実際にはどんな活動をしてきたのでしょうか?

高橋さん「僕が最初に参加した活動は、ガイドマップの作成でした。越前海岸エリアの観光情報をまとめることで、事業所同士の情報共有や、観光客に互いを紹介する媒体として役立てています。毎年夏の観光シーズンに合わせて作っています。その後、”うみたん”という、海・山・里を感じる体験メニューを団体独自で展開したことで、さらに事業所同士の横の繋がりが広がっていきました。こうした活動を地道に展開してきたことで、地域の頼れるチームとして存在感が増していきました。」

▲越前海岸盛り上げ隊が作成するマップ。地域の事業所や観光名所が

地域の頼れる存在へと成長を感じた出来事として、地域おこし協力隊を迎える際に、越前海岸盛り上げ隊にこんな相談があったと言います。

高橋さん「地域おこし協力隊は、受け入れる側と行政、入る側の3者に、互いに責任と思いやりが必要で、成功もあれば失敗もあります。越前海岸エリアでも、過去には受け入れの失敗を経験していました。そんななか、越前海岸での地域おこし協力隊の再配置にあたり、活動の仕方や運用体制について、行政から盛り上げ隊に相談をされたことがあります。盛り上げ隊のネットワークや活動内容も行政に認知してもらっていて、ただのボランティア活動ではなく事業所として利益目標も考えて行動していることから、行政からも信用を得ていたのだと思います。これは盛り上げ隊が4〜5年地道に活動を続けてきた成果だと思います。」

実際に、現在越前海岸エリアで活動する地域おこし協力隊の2名は、越前海岸盛り上げ隊の活動にも参加しています。地域おこし協力隊だけではなく、直近2年ほど前からは移住者が急増。これも越前海岸盛り上げ隊の存在が大きいと言います。

▲昨年11月に移住した伊藤ご夫妻。盛り上げ隊メンバーからの紹介をきっかけに移住を決断したそう。旦那様はウェブデザイナー。版画作家でもある奥様のなおこさんは、国見の地域おこし協力隊をとして活動しています。

高橋さん「特に殿下は直近2年ほどで10人以上移住者が増えました。越前海岸全体で見ると、やはり盛り上げ隊メンバーとの繋がりから移住してくる人が多いようです。“越前海岸盛り上げ隊がいれば何かあった時は助けてくれるだろう”というのが外から来た人にも伝わるようになったのだと思います。」

飲食や旅館など、事業をする人が多い越前海岸盛り上げ隊の中で、事業所を持たない高橋さん。事業所としてのメリットを享受できるわけではない中でも越前海岸盛り上げ隊で活動する理由は何なのでしょうか。

高橋さん「自分も助けてほしいからまずは自分が周りを助ける。みんなで盛り上げる、生き残っていく、みたいな感覚です。自分は事業者ではないけど、だからこそ地域の窓口として動けると思っています。外から俯瞰した視点でストーリーとして越前海岸を語り、越前海岸と他の地域を繋ぐ存在でいることを意識しています。」

この役割は、自分が移住者だからできることでもあると高橋さんは言います。

高橋さん「移住者だからこそ、他所から来た人に同じ目線でこの地域の魅力を伝えることができます。越前海岸について紹介する際は、とにかく人に会って、地域の人の人柄と熱量を知ってもらう。知らない土地に行ったとき、きれいな建物だけ見ても地域のことは全然わからないですよね。でも、人柄が見えると色んなことが想像できると思うんです。そうすることで地域の面白さが伝わって、もう一度来てみようと思ってもらえたら嬉しいです。」

  • 交流拠点の整備をスタート

越前海岸盛り上げ隊の活動をきっかけに、観光客や移住者が増加した越前海岸は、県内メディアにも多数取り上げたりと注目を集めています。そんな中、越前海岸盛り上げ隊は、より深くこのエリアに関わる人を増やすために交流拠点の整備を進めています。

高橋さん「かつて鍼灸院だった空き家を、越前海岸に訪れた人の滞在場所や、地域との交流拠点として整備を進めています。空き家の屋号から“はりいしゃ”と名付けました。はりいしゃを整備することで、また新しい人の流れを作れると思います。観光と暮らしの間の時間を体験してもらう中で、末長く越前海岸と付き合ってくれる人を増やすことが目的です。これが良い前例になれば、地域の別の空き家を使わせてもらえるようにもなるかもしれません。」

はりいしゃの整備を目的に、越前海岸盛り上げ隊は2020年7月にクラウドファンディングを実施。目標金額150万円に対し296万2千円と達成率197%で終了しました。この資金を利用し、越前海岸盛り上げ隊のメンバーがDIYも取り入れながらはりいしゃの整備を進めています。

高橋さん「地方に他の地域から人を呼ぶためには、彼らを受け入れるための空間が必要です。でも、ただ空き家があるだけではダメだし、空いている場所を活かす意思を見せないと人は来ないと思っています。はりいしゃはそういう意味で、ただ人が集めるだけの場所ではなく、越前海岸盛り上げ隊の”人を受け入れる覚悟”を伝えるための場所でもあるんです。今後ははりいしゃをどう活用するかも考えながら、より一層の覚悟を持って動かなければなりません。

ちなみに空き家の改修を素人がやるのはかなり大変です(笑)。でも、僕の住む殿下では、地域の空き家の整備を進める地元の集団がいて、実際に改修した家で移住者を受け入れていたりします。空き家改修のような目に見える活動をすることは、外だけではなく内側……つまり地域の中での団体に対する信頼にもつながってくると思います。」

実際、高橋さんも殿下の地域おこし協力隊に就任するにあたり、空き家の活用を進める殿下の様子を見て、“ここなら何かできそうだ”と感じて就任を決めたそうです。そういった「外から人を呼び込める準備ができていること」の有無が、その地域で人を受け入れられるかどうかを示す指標にもなり得るかもしれません。

  • 他の地域の希望になるような活動がしたい

交流拠点の整備が進み、今後更なる人の流れに期待が高まる越前海岸。移住者の一人でもある高橋さんからみて、この地域や越前海岸盛り上げ隊は、今後どうなっていくと思うかうかがいました。

▲越前海岸盛り上げ隊が所有する空き物件。こちらも、今後整備を進める予定なのだそうです。

高橋さん「越前海岸は今注目の地域。この熱を絶やさず、広げていくことが大事です。そこで観光と暮らしの間を魅せる交流拠点“はりいしゃ”の存在も機能してくると思います。越前海岸盛り上げ隊は、逆境でも常に前を見て活動しています。クラウドファンディングも、コロナで苦しむ事業者の救援目的では無く、“地域の未来のために”を重視して行いました。この姿勢に共感して移住してくれる人がもっと増えたら嬉しいです。」

移住者を受け入れたい地域に必要な覚悟として、高橋さんはこのように語ります。

高橋さん「移住者を受け入れたい地域は、まず受け入れる器を用意することが大切だと思います。器とは、住居や仕事、地域との関係など様々です。自治体任せでは無く、地域に密着したコーディネーターがいるとさらに心強い。移住に向き合い、地域に求めるものを提供できる人材が必要だと思います。」

過疎地とも言われる越前海岸は、越前海岸盛り上げ隊によって、土地の外部から移住に興味をもつ人を惹きつけ、新たな住民を受け入れる土壌が形成されています。

高橋さん「僕らの活動によって越前海岸に起こる変化は、他の地域の人にも影響を与えると思います。他の地域の希望になるような活動がしたい。広く言えば、みんなで日本を良くしていきたいのです。」

8月から9月の2ヶ月間、筆者は実際に越前海岸で暮らすように旅をし、多くの人にお会いしました。高橋さんの言う通り、地域の抱える問題に前向きに向かい、逆境すら希望と可能性に変えてしまう越前海岸盛り上げ隊の頼もしさは大変魅力的で、去り難く、再び帰って来たいと思わされました。

皆さんも、訪れた人々を魅了する地域の熱量を体感しに、越前海岸を訪れてみてはいかがでしょうか。

Writer西山 綾加

岐阜県出身。学生時代からイベント制作に携わり、制作会社勤務を経て、旅行会社に転職。社会人2年目、巡り合わせでライター業を始める。音楽コミュニティー「SHAKE HANDS」所属。座右の銘は「袖振り合うも他生の縁」。新たなご縁を求めてひとり旅に出ることが趣味。