フルサト | full-sato.comフルサト | full-sato.com

ヒト

地域資源を掘り起こす!ニュースポーツ「フォトロゲイニング」の可能性(1)

ヒト:日本フォトロゲイニング協会
トコ:魅力を再発見したい日本各地の地域 
コト:読図&写真&観光!楽しみながら防災スキルを習得

「フォトロゲイニング」というスポーツを知っていますか?

フォトロゲイニングとは、当日配布される地図を見て、その地図にある得点が設定されたチェックポイントを実際に巡り、制限時間内に獲得した合計得点を競う「ロゲイニング」というスポーツから派生した競技です。フォトロゲイニングの特徴的な点は、地図にある各チェックポイントでの写真撮影が得点の獲得条件になっていることです。チェックポイントは、写真映えする観光スポットや、地元の人も知らないビュースポット、さらにはカフェやレストランなどさまざま。“スポーツ”と“観光”が合わさった面白さに加え、スマートフォンに頼らず実際に地図を読みながら歩いたり走ったりすることで、遭難や災害などの非常時に対応するための訓練ともなります。

今回はそんなフォトロゲイニングの適正な普及と地域観光の振興を目指している「日本フォトロゲイニング協会」の代表理事、伊藤奈緒さんにお話を伺いました。

“スポーツ”と“観光”による地域振興を「写真」がつなぐ

フォトロゲイニングのルール

楽しみながらナビゲーションスポーツに親しんでほしい――。フォトロゲイニングの原型は、ロゲイニングやアドベンチャーレース、トレイルランなど、ナビゲーションスポーツやアウトドアのイベントを数々運営する「TEAM阿闍梨」が2005年に主催した「奥武蔵レクレーションロゲイン」でした。その後、同チームメンバーである伊藤さんがよりわかりやすい大会名ということでフォトロゲイニングと命名、2009年6月から大会の開催を始めました。

「日本フォトロゲイニング協会」の代表理事 伊藤奈緒さん

チェックポイントで写真を撮るという競技としてのアクションから、開催地の様子や参加者の楽しんでいる様子が一目で伝わるのがフォトロゲイニングの大きな魅力です。その魅力を観光事業に活用して、更なる需要を掘り起こしたい自治体や観光協会などからの開催の依頼が多いと伊藤さんは語ります。

富士山が映える絶好のチェックポイント

伊藤さん「写真で“ナビゲーションスポーツ”と“観光による地域振興”をつなぎたいという要望です。競技自体がきちんと成立しているという前提ありきですが、自分自身がロゲイニング大会に参加していた時からその地域ならではの名所や軽食がチェックポイントにあるといいのではと思っていて、ナビゲーションスポーツと観光の相性の良さは感じていました」

競技の性質上、主催者側が「ここを見てほしい」と希望しているポイントには高得点を付与するなど、主催者側の意向は出来るだけ汲んで設計をするそう。参加者がSNSに写真をアップする場合も、見映えのするポイントは拡散されやすいとのこと。一方、一見地味でも観光案内には出ていないような発見が得られたポイントは、参加者の目に素晴らしい魅力として映ることが多いので、そういった場所の掘り起こしも大切だと話します。

地元の人も気づかない潜んだ魅力を掘り起こ

壁画の前で温泉饅頭をパクリのポーズ。これもチェックポイント

伊藤さん「主催者側は『灯台下暗し』で、ご自身の地元にある見どころに気づいていない場合がよくあるんです。『チェックポイントに出来るような観光資源がなくて』とおっしゃられますが、そんなことはありません。日本フォトロゲイニング協会の公認大会では協会のスタッフが必ず事前に現地に行って実施を希望されているエリアを自分たちで歩きます。すると、地元の人も知らない古道など、面白い場所がたくさん出てきます。地方では基本的に車で移動しますから、歩いたり走ったりする速さや視点で見えてくる見どころは見逃しやすいんです。動き方の違いで出てくるギャップが、面白さに繋がるんだと思います」

びっくりするような例もあります。「ある岩手の大会で、開催直前に主催の方が『この時期は橋の上から鮭の遡上が見られるんですよね』とさらっとおっしゃったたことがあって。鮭の遡上光景自体がものすごく光る観光資源ですし、日常では見られません。あわててチェックポイントに追加しました」。地元の人にとっての日常の風景が、その地方独自であったり、現在では希少価値が高かったりする例は決して少なくないそうです。伊藤さんは、その地方にしかない魅力はその場で生活していると気づきにくく、それを発掘出来るのがフォトロゲイニングの価値のうちの一つだと実感しています。

「フォトロゲイニングの内容が面白いとその地方の好印象へと繋がっていく」と話す伊藤さん。常に混雑しているような有名観光地よりも、あまり観光地としてはメジャーではないエリアのほうがのびのびと走れて、多様なルート設計が出来ることからファンが増えやすいと言います。面白い大会にするためにとても大切なのは、対象エリアの切り取りと正確な地図作り、この二つはかなり難しく経験に基づいたノウハウが必須です。日本フォトロゲイニング協会では開催地側の希望とすり合わせながら、チェックポイントの配置バランスを考え地図を作成していきます。大会運営のコアとなる部分を中心に引き受け、誰も行かないチェックポイントを設定してしまったりエリアの過不足を出したりしないよう、アスリート系の参加者からファミリー層まで楽しめる、質の高い大会開催を継続して行っています。

ユニークなおもてなしや前日企画などで例年人気の大会

根強い人気を誇る「フォトロゲイニング®上市まちのわ」

人気の大会となって手応えを感じている一例としては、富山県上市(かみいち)町の大会があります。剣岳のふもとでアップダウンが多く指定エリアも広い、高難易度の大会ですが、地元が一体となって歓迎してくれるおかげで、現在8回目まで開催されています。コース上での水分や食べ物の補給はもちろん、地域の特産品でもてなしてくれる「エイドステーション」や、神社で息を吹き込んだ「厄玉」を石に投げつける厄払い体験などユニークなおもてなしが光ります。

また、草津温泉の大会主催者は、参加者に温泉に宿泊してほしいという希望を挙げられました。そこで、協会側では前日に来た場合の来場特典を設定しました。特典は主催者提案の入浴・観光施設の割引券のほか、「みつけて・けろふぉと」というミニゲームに参加出来ること。「けろふぉと」は、フォトロゲイニングとは逆に、狭いエリア設定で写真の場所が地図のどこにあるかを探すゲームです。前の日に土地勘をつけて本番に出られるので少しだけ有利になることもあり、現在は参加チームの半分以上が前日泊で参加しているそうです。

アスリート系の参加者が遠征しても満足出来る大会に

作戦を練り直す参加者。本格的な装備からあふれ出す本気度

コロナ禍の影響もあり現在は300人規模の大会がメインですが、コロナ禍以前は700人が参加した大会も開催されていました。フォトロゲイニングの競技自体のファンもいれば、その土地に興味があるから参加する人もいて、楽しみ方はさまざまです。

伊藤さん「ファミリーも気軽に参加出来る大会であることは重要ですが、出来るだけ多くの参加者に来ていただくためには、遠方でも遠征してくれるアスリート系の参加者に満足してもらえる手応えのある大会を作ることも大切です。ファミリーもアスリート系の参加者も同じ1枚の地図で楽しみながら参加出来ることが、フォトロゲイニングの醍醐味です」

さまざまな参加者がその人なりの楽しみ方で参加出来るフォトロゲイニング。実はフォトロゲイニングには幅広い層が楽しんで参加可能という魅力に加えて、防災やアウトドアでの行動の予行演習にもなるという側面もあります。後編では、まだあまり知られていないフォトロゲイニングで得られる“スキル”の面について詳しく伺いました。

※「フォトロゲ®」、「フォトロゲイン®」、「フォトロゲイニング®」は登録商標であり、開催には日本フォトロゲイニング協会の監修が必要です。
二階堂ねこ
Writer二階堂ねこ
https://twitter.com/nikaidoneko

奈良育ち、大阪の出版社勤務を経て、結婚を機に和歌山に移住。海のある街に猫と住む夢が叶ってごきげんな日々。猫記事から地域創生、医療記事まで、取材やインタビュー執筆をメインに活動しつつ、地域の魅力を発信したいフリーライター。