ヒト:しおまちブラザーズ トコ:レモン生産量日本一を誇る広島県尾道市生口島 コト:『移住系擬兄弟ユニット』が瀬戸田の街を活性化
「世はアイドル戦国時代」と言われるようになってから早10数年。地域観光を盛り上げるべく結成された「ご当地アイドル」が次々と誕生、なんて時期もありました(NHK連続テレビ小説『あまちゃん』の世界!)。しかし、まさか海外メディアが拾うほどの発信力をもったご当地アイドルが、この令和の時代に登場するなんて。
舞台はレモンの生産量日本一を誇る広島県尾道市・生口島(いくちしま)。半日もあれば島を自転車で一周できるような、この小さな島で結成されたのが、今回ご紹介する“擬兄弟アイドルユニット”こと「しおまちブラザーズ」です。
島の活性化に取り組むべく、情報発信を続ける二人。生口島で生まれ育った人たちなのかな……と思いきや、なんと東京からの移住者だったのです。「島の魅力を伝えたい」と意気込む彼らはなぜ生口島に降り立ち、そしてアイドル活動を行なっているのでしょうか?
INDEX
コンセプトは「まちのリビングルーム」 SOIL SETODAの“看板アイドル”
尾道港からフェリーで瀬戸内海を横断し40分。人口わずか8,700人弱の小さな島・生口島はしまなみ海道のほぼ中央に位置します。
レモンの生産地として知られるほか、島のあちこちにさまざまなアート作品が展示されていることから、近年は”アートの島”としても有名に。コロナ禍で若干の落ち着きは見せたものの、一時期は国内外の観光客で賑わっていました。
生口島のなかでも最近注目されているのは、今年2021年4月にオープンしたばかりの複合施設・SOIL SETODA(ソイル・セトダ)。島の出入り口のひとつ・瀬戸田港のすぐ目の前にあるモダンな建物です。
▲民族資料館として使われていた「Kura」(1枚目)には観光案内所と珈琲豆の焙煎所、お土産店が。新築の「Living room」(2枚目)には、地産食材を使用する飲食店と、カジュアルな宿泊施設がある。
SOIL SETODAは、築140年の蔵を改築した「Kura」と新築の「Living room」という二つの建築物からなる施設。“まちのリビングルーム”というコンセプトの通り、島外から訪れた人だけではなく、地元の人も訪れる憩いの場として機能しています。
さて、なぜSOIL SETODAのご紹介をしたのか。それは今回ご紹介するしおまちブラザーズのお二人の正体と、深く関係があります。実をいうと、彼らはこのSOIL SETODAを運営するスタッフさんなのです。
ブラザーズの結成秘話「しおまちとワークショップ」で瀬戸田と関わりを持つ
▲左が兄の鈴木慎一郎さん。右が弟の小林亮大さん。SOIL SETODAを運営する「しおまち企画」の二人。
しおまちブラザーズは、兄・鈴木慎一郎さんと弟・小林亮大さんのお二人からなる“擬兄弟アイドルユニット”。現在、SOIL SETODAのホテル運営やワークショップの準備、企業誘致などに取り組んでいます。
普段から生口島にある町・瀬戸田に二人で居を構え、一緒に暮らしているというしおまちブラザーズ。しかし、彼らは血の繋がった兄弟ではありません。それどころか冒頭でご説明した通り、島には縁もゆかりもないのです(兄・鈴木さんは福島県、弟・小林さんは東京都出身)。
SOIL SETODAの運営者として移住してきた二人は、なぜアイドルコンビを結成するに至ったのでしょうか。その結成エピソードは昨年の夏に遡ります。先に生口島との関係をもったのは、弟・小林さんでした。
弟・小林さん「仕事で瀬戸田の商店街活性化を目指す『しおまちとワークショップ』というプロジェクトに3年前から携わらせていただいて、移住する以前から何度も島に来ていました。
『しおまちとワークショップ』は、しおまち商店街が100年後も賑やかであり続けるための施策を、地元内外の人同士で一緒に考えていくためのプロジェクト。尾道市などと協力しながらまちづくりを推進していました」
シャッターも黄色くなりました🍋#しおまち商店街 pic.twitter.com/7d5iTcEKHF
— しおまちブラザーズ🍋島移住 (@shiomachi_Bro) March 20, 2021
▲商店街の中にあるポストやシャッターをレモンの島にちなんでレモン色にしたのも「しおまちとワークショップ」の取り組みから。瀬戸田で新しいことにチャレンジしたいと思っている、人や企業の誘致も行なっている。
弟・小林さん「地元の方々と関わる中で、自分たちもこの地域に場を作りたいと考えるようになって。そして2020年2月頃から施設づくりの計画がスタートしました。
ちょうど瀬戸田で港の近くに高級な宿泊施設を建てる計画も進んでいた頃で、確実にエリアが盛り上がっていく機運がその頃からあったんですよね。
僕も当初は東京にいながらリモートで瀬戸田とやりとりを進めていましたが、もっと地域と地道に関係を作りたいと考え、2020年7月に移住してきました」
兄・鈴木さん「僕が移住してきたのは昨年2020年の8月。SOIL SETODAの店舗運営担当として、島に移住してきました。もともと弟(小林さん)とは知り合いだったんです。
同じタイミングで移住したし『店舗開業とは別で二人で面白いことをやりたいよね』と話していました。
実は東京にいる時から、台湾のWEBメデイア『初耳』の編集長で、SOIL SETODAの運営元の外部取締役を務める小路輔さんに『地域で活動をするならキャッチーで親しみやすいキャラクターの方が受け入れてもらえるよ』とアドバイスを頂いていて。キャッチーといえばアイドルかなとは思っていました。(笑)
僕たちが一緒の家に住んでいることや、東京から島に移住したこと、店作りをしていること、ライフスタイルも含めて全部コンテンツだと思ったんです。そこで、“しおまちブラザーズ”というキャラクターを立て、島の面白いことを発信し始めました」
実際の活動:地域活動は親しみやすいキャラクターで
移住してまもなく結成したしおまちブラザーズ。”アイドル”とうたいつつも、決して歌って踊れるグループを目指すわけではありません。あくまでも目的は「瀬戸田を盛り上げるきっかけになること」。今でも瀬戸田で開催される「瀬戸田レモン祭り」のステージ企画のひとつを手がけるなど、地域行事で活躍しています。
そして彼らが移住してから約1年。今では島民も島外の方も含め「しおまちブラザーズいますか?」とSOIL SETODAに人が訪れるようになるほどの人気ユニットとして成長を遂げました。
兄・鈴木さん「開業後1ヶ月くらいまでは連日のように訪ねてきてくれる人がいました。もちろん魅力的な施設に興味を持って……という方が多いと思いますが、僕たちの存在がきっかけになっているなら嬉しいです。
実際に、地元の方が僕らをきっかけに、別のスタッフとも交流してくれるようになったんです。そういうのを見ていると本当にいいなと思います」
しかし、言ってしまえば島民にとって「よそ者」な存在である二人は、1年という短いスパンの中でどのように「すぐ会えるアイドル」の地位を確立していったのでしょうか。
次回更新する後半では、移住者である彼らがどのように地域との関係性を深めていったのかについて、ご紹介していきます。