けん玉「発祥の地」廿日市市がけん玉ワールドカップでつなぐ、地域と世界
大正時代に生まれたとされる昔ながらのおもちゃが、今や世界大会を開催するような、一大競技となっているのはご存知でしょうか?
世界中の猛者が集い、けん玉の技のレベルを競い合う「けん玉ワールドカップ」(以下KWC)。会場となっているのは、けん玉発祥の地こと広島県・廿日市市(はつかいちし)です。
今や数万人規模の見学者が訪れ、町おこしにも貢献しているKWC。生まれた経緯について、発起人である「一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク」(以下グロケン)の窪田 保さんを取材しました。
けん玉との出会い
そもそも窪田さんがけん玉を最初に手にとったのは小学生の時。父親に木製のお土産用けん玉を買ってもらったのがきっかけでした。ただ、当時は一緒にけん玉をする友人や、新しい技を教えてもらえるような環境も無く、次第に興味は別のことへ。再燃したのは十数年経った大学生の頃だったと、窪田さんは語ります。
▲窪田保さん(一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供)
窪田さん「大学の部活動で怪我をしてしまい、リハビリをしていた時に再び興味を持つようになりました。子どもの時とは違った面白さがあり、夢中になれたのを覚えています。その時に、子どもから大人まで楽しめる、けん玉の面白さを伝えていきたいと思い。けん玉サークルを設立したり、ヒッチハイクで日本一周しながら各地でけん玉教室を開催したりするようになったんです。」
さらに、海外の“KENDAMA”シーンが、窪田さんの興味をより加速させます。
窪田さん「2000年代後半くらいになると海外で開催される大会では、DJが音楽をかける中、プレーヤーたちがアクロバティックにパフォーマンスするんです。会場中が熱狂していて、日本の大会とは全く違った雰囲気でした。日本にはないけん玉の楽しみ方や、独自の進化を目の当たりにしたとき『けん玉発祥の国である日本からも積極的に発信していきたい』と思うようになりました。」
“けん玉発祥の地”で世界最高のイベントを
そして生まれたのが、窪田さんが主宰するグロケン。日本から世界へけん玉の面白さを伝えることを目的とし、2012年に長野で設立されました。「海外で巻き起こっている熱狂的なブームを国内にも伝播させるには、世界大会が必要」。そう思った窪田さんはじめとするグロケンメンバーは、世界大会の会場として広島県廿日市市を選びます。なぜこの地が会場に選ばれたのでしょうか?
窪田さん「世界大会を開催するにあたって、第一回はけん玉発祥の地であることが外せませんでした。選手のアクセスや観客動員などを考えると、都心の方がやり易かったのかもしれません。ただ少なくとも第一回は、日本が誇る文化の発祥地である廿日市市で開催することに意味がある、と思っていたんです。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
しかし、すでに廿日市市では「けん玉の発祥の地」というキャッチフレーズが使われていて、駅前にけん玉のモニュメントなども建てられていました。けん玉で町を盛り上げようという流れはあったのに、今まで世界大会が開催されていなかったことが逆に不思議に思えてきますが……。
窪田さん「地域では製造面での伝統継承をメインとしていて、木材利用センターでのけん玉製造以外、具体的な活動にまで結びついていない状態だったからだと思います。廿日市としても、どう活動すべきか考えあぐねていたタイミングでした。
グロケンという伝統継承とは別の目的をもった団体が、発祥の地に世界大会のフォーマットを持ってくる。市の“けん玉活用”という課題と、グロケンの『けん玉の世界大会を日本で盛り上げたい」という想いが合致して、KWCの開催につながりました。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
日本に根付いた文化を嗜む。「選手ファースト」の大会運営
そうやってけん玉一つで廿日市市に乗り込んだ窪田さん。その流れで廿日市市にKWC実行委員会が立ち上がり、今や、地元の商工会や企業を巻き込んだ団体として活動していますが、始めの頃はどのように地域へ溶け込んでいったのでしょうか。
窪田さん「廿日市市には、もともと地元を代表するトライアスロンの大会があり、商工会や木材組合、観光協会など横のつながりがあったんです。関係者の紹介を受けながら、その下地を活かし、より地域に密着した形でけん玉大会ができるようにしました。
意識したのは、開催地と運営が一つになって実行委員会を編成していくこと。世界大会の主催も、グロケンとけん玉ワールドカップ廿日市実行委員会の共催です。主に大会の広報宣伝や競技運営をグロケンが担当し、市としての受け入れ態勢を整えたり、地元企業の協賛を集める活動を実行委員が担ってくれたんです。そうやって、地元の人々と協力しながら一つの企画を生み出していったことが、地域へKWCが溶けこめた要因なんだと思います。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
そして、窪田さんらは創設から3年目で第一回ワールドカップを開催。廿日市市内からは8名、海外を含む県外からは100名上の選手らが出場しました。窪田さんは1回目の大会開催の感触を振り返りながら、「初回で選手と地元の人との交流の機会を生み出したこと」が、滑り出しに影響した、と語ります。
窪田さん「大会では1日目が終わった後、商店街で選手へのウェルカムパーティを行い、海外・日本人も関係なく、飲み食いして地元の人とも触れ合える場を提供したんです。さらに打ち上げパーティーでは毎回地元の酒造会社さんが酒樽を持ってきて、歌いながら入場し、舞いを見せてくれたり、日本の土地に根付いた文化を嗜む機会を提供できました。
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
僕たちが大会運営だけを行うのだとしたら絶対にできていないことを、世界中の人たちに見せてあげることができたんです。それは、地元の人達と一緒に実行委員会を行えているから、実現できたこと。経済効果以上のものを、全国・世界中の人に提供することができていると自負しています。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
また、来場者数も徐々に増えていき、去年の第六回大会では2日間でおよそ2万9千人が会場を訪れたのだとか。名実共にグローバル規模のイベントとして、成長しつつあります。今後も継続して大会を発展させていくためには「根っことなる価値をつくることが必要」だったそうです。
窪田さん「なぜ毎年規模を拡大させながら続けられているのか、なぜあらゆる地域から参加者が来るのかを深く考えてみたのですが……地域性以上に、競技大会としてクオリティの高い大会である、という前提も重要なんだと思いました。
ルールの公平性が確保されていて、ジャッジのレベルが高い。そういった、大会を開催する上でのベースとなるクオリティがなければ、世界中からわざわざ人が訪れることはありません。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
では、なぜKWCの開催が、結果として“町おこし”につながっているのでしょうか。窪田さんは「人々がその場所に集まる目的・理由」をちゃんと作ることが、地域を活性化させているのでは、と語ります。
窪田さん「世界最高の“人の繋がり”が、その場所に集まるようにすれば、自然と人が集まります。若い人たちにとって、いわゆる地元のお土産物などのモノを買うという事には大きな価値がないと思います。それ以上に、世界最高との経験が得られることに、価値が見出されているんです。大会に参加し、プレイヤーと交流すること。それが巡り巡って“町おこし”につながっているんだと思います。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
参加者の裾野を広げることが、協力者を増やしていくことにつながる
グロケンは、大会運営“以外”のところでも、参加者を増やすための取り組みを行うことで、より廿日市市に人が集まるようなシステムを築こうとしています。
窪田さん「年代別に表彰を行ったり、子供も参加できるけん玉教室を開催したり、けん玉検定ブースを設置するなど、幅広い層が集まるような仕組みを年々増やしています。すると地元の人達は来てくれますし、子供が参加すればその親御さんも一緒に楽しんでくれるでしょう。
また、けん玉の大会はアリーナの中でやりますが、外に出ればビールやかき氷など飲食店が出店しています。けん玉にそこまで興味がなくても、ご飯を食べたりビール飲んだりして遊びながら観戦すればいい。決勝の時間まで自由に過ごしてもらえるような環境づくりも意識しています。
大会としてナンバーワンを決めることや、ハイレベルなプレーヤーたちを応援する部分がありつつも、“いかに幅広い人が楽しめるか”を大事にすることが、コミュニティを広げていきますし、協力してくれる人を増やしていくことにつながると思っています。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
そして、窪田さんはけん玉そのものが持つ可能性についてこう語ります。
窪田さん「僕らの考える良い社会は『みんなの日常に楽しいことをもっと作れる環境があること』です。
けん玉を含めた“遊び”のいいところは、役に立たないけど意味があること。けん玉が日本でも流行しましたが、別に遊ぶ目的は“バランス感覚を鍛える”とか“集中力がつく”みたいな実用的なものだけではないと思うんです。遊んでいると『嬉しい』『悔しい』といった喜怒哀楽を表す言葉がとっさに出てくる。そういうのが遊びの良いところであり、良いところへ気軽に気がつける道具として、けん玉がある。私たちは、そういったけん玉の可能性を提案していき、良い社会づくりに貢献したいと思っています。」
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク提供
ただ“町おこし”を目的として世界大会を開催するだけでは、“世界大会”という名ばかりのイベントになってしまった可能性だってあるかもしれません。毎年様々な国・地域のプレイヤーが廿日市市に訪れているのは、“その文化がもつ楽しさ”を知る人々と、“その文化を生み出す”地元の人々が手を取り合った結果なのです。
けん玉カルチャーがこれからどう変化を見せていくのかを期待しながら、ぜひけん玉に手を取ってみては。
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク(GLOKEN)は、けん玉を通じて人々の日常に「楽しい!」があふれた社会づくりに貢献したいと考えています。 2012年の設立以降、けん玉ワールドカップ®の開催や、けん玉検定®の企画運営、けん玉先生®という指導者資格の発行等に代表される諸活動を通して、世界中の人々がけん玉を楽しむための環境づくりに取り組んでいます。
- Writerfull-sato.com編集部
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