47都道府県を旅してたどり着いた、新たな活動拠点。デニムブランド「エブリデニム」が産地・児島にもたらす新しい人の流れ(前編)
目の前に広がる瀬戸内海。瀬戸大橋や島々が見渡せるこの絶景は、「DENIM HOSTEL float(デニムホステル フロート)」から一望できます。2019年9月、国産ジーンズ発祥の地・児島にできたこの宿泊施設は、デニムブランド「EVERY DENIM(エブリデニム)」唯一の拠点でもあります。
ブランドメンバー自ら全国を旅して、デニムやその産地の魅力をお客様に直接伝えることを大切にしてきたエブリデニム。受注生産性で必要以上の在庫や店舗を持たず、販売会を各地で開催するなど独自のスタイルを築いてきました。そんな彼らがなぜ、ブランド初の拠点を宿泊施設にしたのか。前編ではブランドの立ち上げから拠点設立の決意まで、後編ではホステルの準備と今後の展望について、エブリデニム共同代表の山脇耀平さんにうかがいました。
▲左が兄、山脇 耀平さん。右が弟、島田 舜介さん
INDEX
デニムづくりに魅了され、
学生時代に活動をスタート
山脇さんが学生時代に、実の弟である島田舜介さんと共に立ち上げたブランドがエブリデニムです。兵庫県出身で関東の大学へ進学した山脇さん。弟さんが岡山県の大学に進学したのをきっかけに、デニムの加工場へ見学に行きました。そこでデニムのすばらしさに心奪われたのだそう。
山脇「幼い頃からデニムが好きだったので、作られる現場を見てみたいと思っていました。実際に見学してみると、技術のすばらしさはもちろん、一つ一つ手作業でデニムを作る職人さんの姿がとても素敵でした。世界でも高い評価を受ける、国産ジーンズ発祥の地・児島の技術をもっと多くの人に知ってもらいたいと思いました。」
デニム産地の魅力を多くの人に知ってほしいという思いから、瀬戸内ジーンズに関する情報を発信するメディアとして「エブリデニム」をスタート。しかしそのあと方向転換し、デニムを作って販売するデニムブランドとしての活動を始めます。
山脇「学生の時に始めたこともあり、最初はマネタイズもせずにメディアを運営していました。しかし、次第に情報発信のみで産地の魅力を伝えることに限界を感じたのです。もっと産地に根付き、産地に信頼してもらえるような活動がしたい。生産者と消費者を近づけるブランドを自分たちで作ることでそのすばらしさを伝えようと思い、メディアからブランドへとシフトしました。」
エブリデニムの特徴はその販売スタイルにあります。神奈川県三浦の蔵書室「本と屯」や渋谷のホテル「koe」などをはじめ、全国各地のアパレルショップやカフェ、イベントスペースなど、価値観の近い人々が集まる地域コミュニティーで自ら製品をプレゼンテーションしていきました。
▲神奈川県三崎の「本と屯」にて開催した販売会
山脇「僕たちが現場の職人さんたちから直接うかがった、素材や工程の話から作り手の思いまで、生に近い声をお客様に届けることがブランドのこだわりです。週末には西側を弟、東側を僕がと、2人で手分けをして各地で販売会を開催していました。」
全国各地へ赴き直接販売するスタイルを貫く中、週末だけという滞在時間の短さに限界を感じ始めます。
山脇「せっかく赴いた土地のことを学ぶ時間がなく、週末だけ行き来することにだんだんとモヤモヤしはじめました。長く滞在することで自分たちの販売スタイルをより多くの人に楽しんでもらえるし、自分たちもその土地をもっとよく知ることができるのではと考え始めました。」
47都道府県をめぐる旅がスタート
こうして、2018年4月、47都道府県をめぐる旅がはじまります。クラウドファンディングでキャラバン「えぶり号」の購入資金を募り、776万800円を獲得。1つの地域に1週間程度滞在し、週末は販売会、平日は現地のものづくりや暮らしに関わる人々から、その地域と地場産業について学んでいったといいます。
山脇「旅に出る前から、デニムの生まれた街・児島に人が来てくれるようにしたいという思いがあり、そこに拠点を持つことはなんとなく念頭にありました。そのため日本各地で、ものづくりに携わる人がどのような思いで、どのような工夫をしているのかインプットの時間を作りたかったのです。実際に旅の中でさまざまな人と出会い、影響を受け、産地に根差した拠点づくりへの思い決意へと変わりました。」
旅の中での出会い。
土地に根ざした拠点を構えることを決意。
旅の中、衣食住に関わる生産者から話を聞き、それぞれの地元で、土地に根ざし、地域に貢献しながら働く姿に理想を見出したといいます。47都道府県、数ある出会いの中でも特に影響を受けたのは、りんごの街・青森県弘前市でりんご農家を営む、「みかみファーム」さんだと語ります。
山脇「みかみファームさんは、氷点完熟という雪のなか育った甘みの強いりんごをつくったり、台風で被害を受けた際にも、りんごの加工販売を始めたりと、常識に囚われない革新的なりんごづくりをされています。三上さんの姿には、「美味しいりんごをつくる」という信念と、困った時には周りと協力して突破していくリーダーシップ、そしてりんごづくりを通して地域に貢献するという強い地域愛を感じ、とても惹かれました。地に足をつけて生きる人の力強さにとても憧れたのです。」
各地で土地と共生する人々に影響を受けた山脇さんは、自らも児島の地に根ざし、児島に貢献すべく、「エブリデニム」の拠点づくりを決意したといいます。
その準備は旅の途中、2019年1月初旬から始まります。計画当初はショップ設立を考えていたという山脇さん。しかし、ある建物との出会いが拠点の形態を変化させることになります。一体どんな建物とどのようにして出会ったのでしょうか。後編へと続きます。
デニム 兄弟が2015年に設立。瀬戸内地域のデニム工場と連携し、オリジナル製品の企画販売を中心に活動をしています。 18年4月からは、クラウドファンディングで購入資金を募ったキャンピングカーで、移動販売をしながら全国47都道府県を巡り、 19年9月には初の拠点、泊まれるデニム屋「DENIM HOSTEL float(デニムホステルフロート)」をジーンズ工場の街・岡山県倉敷市児島にオープンしました。